キキとのデート 前編
「そういえば、今も俺の心を読んでるのか?」
「ああ、心配しないで。・個人的なルールとしてこういうプライベートなお出かけの時には魔法は使わないようにしているんだ。相手に失礼だし、気まずくなることもあるからね。だから安心していいよ」
「そうか、それは良かった。確かにいつでも他人の心を読んでいるとしんどいよな」
「うーん、それはそうだけど…… 今また失礼なこと考えてたでしょ?」
「…… そんなことはないぞ」
心が読める相手はやっぱり難しい。心を無にすることはできないからな。気を使う。
「まあ、そんなこともあって、私は恋愛みたいなことは難しいの。今まで付き合ったこともないよ」
「あー、そうだよなあ。関係が深くなるとどうしても心の中を覗きたくなるよな」
「そうなんだよ。友達でもそう。気持ちを知りたくなっちゃうんだけど…… 知って得したことはないね」
魔法の力は必ずしも良いものではないというのは良くわかる。俺も自分の強い魔法力の扱いには苦労してきた。なんでもすぐに魔法の力に頼って解決したくなる時があったが、それを続けていたら、誰からも好かれないお山の大将になって終わっていただろう。色々な出来事が自分を変えてくれたが、キキにも良い出会いがあるといいな。
「その力はどんな相手にでも使えるのか? それとも制限があるのか?」
「うーん、自分より遥かに強い相手には使えないっぽいんだよね。たまーに何も聞こえてこない相手はいたけどみんなすごい冒険者だったから」
「そうか、じゃあ強い冒険者で良い相手を探すしかないな」
「でも自分より強い男性は苦手なんだよね。力で負けると思うとなんとなく怖いというか…… 男にはわからないと思うけど」
「なるほど。なんとなくわかるぞ」
エリスは自分より弱い男は好きではないと言っていたな。一緒に戦って楽しくないかららしい。女は皆、彼氏や旦那と戦闘をする前提なのだろうか?
店員がケーキと紅茶を運んでくる。ケーキはチーズケーキだ。まろやかな味とサクサクした食感が美味しい。
「うん、美味しいね。やっぱり現地の人は良いお店を知ってるね」
「俺も初めて来たが、聞いてた通り悪くないな」
「ありがとう、良い経験になったよ。ライブ前にはやっぱり美味しいご飯だね」
「ライブで世界中を回ってるんだろ? 世界中の食事に詳しそうだな」
「そうだね、お金もあるし、ライブの時に食べることができるご飯は楽しみだね。色々な国に行ったけど、私は魚料理が好きだから海の近くの街に行くのが1番楽しみだね」
「魚か。俺はあまり食べたことないな。中々外に出ることはないからな」
「まあ冒険者だと気軽に外にも出れないしね。仕方がないよ。また来る機会があったら魚をプレゼントしてあげよう」
「……腐らないのか?」
冒険者は一度冒険者登録した国からは許可がない限り出国が出来ないというルールがある。各国での冒険者の引き抜きを許すと、大国に優秀な冒険者が殺到することになるため、それを防ぐためのルールだと聞いている。とはいえ、大国の方が報酬が良いため、大国で冒険者になる人が多く、結果として優秀な冒険者は大国に多いのだが。
ケーキを食べ終わり、紅茶を飲みながらのんびりした時間を過ごす。ゆったりとした時間が流れる、その中でお茶を飲む。癒しの時間だ。
「ねえ、私のライブって見たことある?」
「いや、ないな。すごい歌が上手いとは聞いてるが、実際に聞いたことはないな……」
「まあ、そうだよね。前この街に来たときはそこまで有名じゃなかったしね。ライブには自信があるよ! お金も時間もかけて作ってきたからね」
「曲も自分で作ってるのか?」
「基本はそうだよ。時々他の人に作曲をお願いして、作詞だけすることもあるけどね。やっぱり自分が歌う曲は自分で作りたいじゃん? そこはこだわりだね」
「こだわりか。さすがプロだな。どんな曲が多いんだ?」
「ラブソングかなあ。自分が恋愛できない分、恋愛に対する憧れは強いんだ。だからそういう歌が多くなっちゃうよね。ちょっと悲しい曲が多くなっちゃうんだけど、その方が人気があったりするんだ」
「なるほど。楽しみだな」
「ライブに来てくれるの?」
「忘れているかもしれないが、俺は警備だ。警備しながら聞かせてもらうよ」
「そうだったね」
「ケーキのおかわりはいかがですか?」
「いいね。もらおうかな。君もどう?」
「そうだな。同じのをもう一つ」
「ありがとうございます! すぐ準備しますね」
「ライブ前は結構緊張するんだ。何回やっても慣れないね」
「まあたくさんの観客が見ているしな。俺なら緊張して声が出なさそうだ」
王都で褒賞を受けた時もたくさんの人が見ていて緊張した記憶がある。特に話すことなどはなかったが多くの視線の中、歩くだけでも震えたものだ。
「そうだね。前の日は失敗したらどうしよう、って緊張しながら寝るよ」




