カミラ姫の考え
昼の王宮。心地よい温度の穏やかな時が流れる中庭で、カミラ姫はお茶を飲んでいた。隣に待機する執事のブロットに話しかける。
「さて、怪盗の件ですがどうなるか、ですね。私の予想が正しければかの大泥棒を仲間にすることは可能でしょうが…… 予測不可能な事態は起こりえますからね」
「姫様が予測できないことがあるとは思えませんが。犯行前にカミト様達が取り押さえるのでしょうか?」
「いえ、おそらくサクラの宝は盗まれるでしょう。また盗まれなければなりません。そうでなければカミト様達が秘密裏に接触することができないですからね。かの怪盗の手口は不明。失敗したことはない。そう考えると今回も盗み自体は成功すると考えています。後はその後で捕まえることができるかですね」
「今まで捕まったことないですが、取り押さえることが可能なのでしょうか?」
「そう考えています。ヘッズオブドラゴンが裏で動いている、というプレッシャーは彼にも届いているはずです。いつも以上に慎重な行動を取るでしょう。それが命取りになる、そう考えています」
「なるほど……失礼ですが姫様は何を狙っているのですか?」
「そうですね…… 私の目標を達成するための一つのパズルのピースを手に入れたいわけです。名声もあり、能力もある。そんな彼ならきっと力になってくれるでしょう。今までの窃盗に関して罪を問うわけには行きませんから裏での協力関係になるとは思いますけどね」
相変わらずどこまで考えているのかが想像つかない方だ、そうブロットは考える。カミラ姫が提示する情報はわずかだが、裏では膨大な思考に基づいたストーリーが出来上がっていることはなんとなくであるが感じることができる。サクラでヘッズオブドラゴンを仲間にすることさえ、思いつきではなく遙か前から検討していた要素なのだろう。
「怪盗の盗みの手口は検討がついているのですか?」
「ええ、大体わかっています。ただ、あくまで想像なので実際には異なるリスクがあります。カミト様達に私の予想を伝えることは変な先入観を与えるリスクがあるため避けた方が良いでしょう。彼らなら現地での情報収集で結論に辿り着くことができるはずです」
翌日、俺は1人で図書館に行って、昔の新聞を確認することにする。怪盗に関する情報収集の一環だ。新聞を購入できるほどお金を持っている人は少ないが、図書館には保存されているため、入り口で利用料を支払うだけで読み放題だ。なお、流石にLV10として行動すると注目を集める可能性があるので、変身済みである。何かと注目を集める立場は情報収集には向いていない。
銀貨を1枚支払い、図書館に入る。賑わっているというほどではないが、多くの人が本を読んでいる。俺は新聞コーナーにいき、とりあえず3年前からパラパラと眺めてみることにした。…… あった。2年半ほど前にコーナーで怪盗特集が組まれている。内容は、姫様や情報屋から聞いた内容を上回るものはないな。ただ、場所によっては義賊のような扱いをされているところもあるようだ。悪徳領主から高級な宝石をたくさん盗み、現金に変えてばら撒いたとか。どこまで真実かはわからないが、そういったエピソードが語られるということは盗みに真面目な怪盗なのだろう。そして、最後には怪盗は変装の名人では? と書かれている。
かの怪盗は今まで必ず予告通りに盗みを成功させてきた。そして、姿を見られたことはほとんどない。厳重な警備をまるで幽霊かのようにすり抜けていくのだ。しかも警備人数が少ないと文句を言った事もある。プライドが高い、とも考えられるがこうも考えられる。回答はたくさんの人がいないと盗みに入れないのではないか? 例えば変装の名人だとするとどうだろう。数人の警備員しかいない場合はすぐに相手が誰かわかってしまう。だが100名いるとどうだ? 1人くらい入れ替わっていても誰も気づかないだろう。怪盗はそれを狙っている可能性がある。もちろん推測に過ぎないが……
なるほど。変装か。もしくはアリエッサと同じように、「変身」の魔法を使える可能性があるか……? 思わず考え込んでしまう、納得感のある推理だった。確かに今回も明らかに警備を厳重にすることを狙っているように、パーティで犯行声明を出していた。これは人数が多い方が怪盗にとって有利ということを指しているのかもしれない。
他に何か有益な情報があるかもしれない。俺はそう考えて、新聞を読み進めて見るが…… 事件のレポートはあるが、詳細は伏せられているものばかりだ。やはり被害者が政府や領主だからだろう。プライドもあってなかなか詳細は見えない。だが、一件だけ詳細なレポートがあった。内容を読むと……
100名規模の大人数での警備をしていたがいつの間にか侵入し、鍵を解除、入れ物は破壊され中身の財宝だけ持ち去られていた、とのこと。扉の前にいた警備員はいつの間にか気絶させられていたらしい。びっくりするくらい情報がない。だが、情報がないという事もヒントなのだろう。生きている限り何かしらの痕跡を残すはずだからだ。残さない、もしくは残しても隠せているというのはそれほど熟練された技を持っているのだろう。俺は再び気を引き締めた。
「すいません、もう閉館の時間です。ご退出をお願いします」
新聞探しに没頭していると、気がつけば閉館時間だ。周りには誰もいない。俺は職員に謝り急いで外に出た。




