大泥棒襲来
真っ暗なパーティ会場ではざわめきと怒号が聞こえる。
「状況を確認しろ! 何が起きているのか調べるんだ!」
この状況は意図的なものではないようだ。ただ、ここにいるのは冒険者ばかり、バタバタと走り回っている者はいない。皆少し同様しつつも臨戦体制に入ってる様子が窺える。
「ねえ、ライエルどうする?」
「俺達はどうしようもないだろ。回復に費やすしかない。何も起こらないことを願うしかないな」
「偶然、なのかな。こんなにタイミングよく明かりが消えるんだろうか」
「まあ、どっちにしても出来ることはないさ。明かりがつくのを待とう」
数分後明かりがついた。周りを見渡すが特に変化はない。キキは…… 警戒体制をとっているが特に問題はなさそうだ。と、そこでキキの前の巨大な熊のぬいぐるみが目についた。あんなぬいぐるみは最初からなかったはずだ。そう考えた瞬間、ぬいぐるみから不快な声が出る。
「パーティにご出席の皆様。こんばんは。私は泥棒です。世間では偉大なる怪盗と呼ばれています。この名前でしたら聞き覚えがありますでしょうか? 初めましての方は以後お見知り置きを」
ざわめきが大きくなる。このままだと聞こえなくなる、というタイミングで「静かにするように!」誰かが一喝し、静粛が訪れる。優秀なリーダーがいるようだ。
「さて、私は盗みを生業にしており、その仕事に誇りを持っております。そして、どんなものでも必ず盗み出すことができる、それが自負です。今までに盗みに失敗したことはありません。今後もないと思いますが……
そんな私がなぜここでお話ししているのか疑問に持った方もいらっしゃると思います。そうです、盗みの宣言です。既に犯行予告は出しておりますが、ご存じない方も多いようですのでここで再度宣言させていただきます。
今回私はキキ様が身につけるネックレス「サクラの秘宝」を盗ませていただきたいと考えています。世にも珍しい巨大な赤い宝石……ぜひ我が手元に置いておきたく。また、キキ様は必ず本物のサクラの秘宝を身につけるようにしてください。偽物だとわかった場合…… イライラして「うっかり」ライブ会場を爆破してしまうかもしれません。私は気高き怪盗ではありますが誰かを殺すことや傷つけることに対する嫌悪感はございませんのでご留意を」
ざわめきが大きくなる会場。おそらく多くの者が初めて聞いた話だろうからな。シールドオブワールドの幹部は苦虫を噛み潰したような顔をしており、キキは苦笑している。ここまで隠していたのがまさか怪盗自らの手で暴露されるとは、といった様子だ。
「さて、冒険者の皆様及び警察の皆様。皆様には大変お手数をおかけしますが、当日を楽しみにしています。狐と狸のばかしあいです。皆様の健闘をお祈りしています」
ボンッ。その言葉を最後に熊のぬいぐるみは吹き飛んだ。小さな爆弾が仕込まれていたのだろう。木っ端微塵になっているが怪我人がいる様子はない。周りを見渡すが不審な動きをしている者はいない。というより見物者が多すぎて不審かどうかも判断がつかない。
「なあ、カミト。これはどういう意味だと思う? なんでわざわざ警備を厳重にしようとしたんだ?」
「なんだろうな。犯行予告が握りつぶされていることでプライドが傷ついたのかもしれないが…… 何か盗みの手口に関係があるのかもしれないな。警備が厳重な方が都合が良いとか」
「ああ、それはありうるな。しかしどうやってやつは盗みを行うつもりなんだろうな? 全く想像つかないが」
「そうだな…… とりあえずそれを考えるしかなさそうだ。リハーサルと本番、気を緩めることはできなそうだな」
「だな。運よく俺は警備部隊の幹部と接点を持つことができた。この話を切り口に警備について色々聞き出してみるぜ」
「僕も何人か接点は持てたけど、1番の成果はキキじゃない? キキにチーム名は認識してもらったからもう一手何かあれば仲良くなることができるんじゃないかな?」
「ああ、そうだな。キキの近くで警備するところまで辿り着ければ良いのだが……。ただ俺は印象が悪いようでな。ダメかもしれない」
「カミトがやらかしたから戦闘をすることになったのかよ。お前でも失敗することがあるんだな」
「すいません、そういうこともありますので当日警備の方よろしくお願いします! この件は他言無用でお願いします! 詳細はリハーサルの時にお伝えしますので!」偉い人がそう告げてパーティは解散となった。なぜ怪盗はこのタイミングで自分の存在をアピールしに来たのか……?
 




