不穏な対面
キキが壇上で話し始めた。少し可愛らしいが、透き通るような声が特徴的である。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。また、私のライブのためにご協力いただけるということで大変感謝しています。先ほど、ライブ会場を見に行きましたが、非常に広く、美しい場所でした。こんなところでライブが出来るなんて、感謝しかありません。
また、サクラという場所に来たのは2回目になりますが、改めて活気に溢れる街だなと感じています。魔物退治の最前線と聞いていますが、そのような特殊な位置付けがこの街の雰囲気を独特にしているのでしょうか、そんなことを考えながら散策させていただきました」
キキのスピーチは続く。知性を感じさせる内容ではあるが、あまり面白い内容ではないな。そして、キキは確かに美人ではあるが、アリエッサやエリスと比較すると…… うーん、まあまあという評価になってしまう。歌に期待するしかないな。
「サクラ全体で私のことを歓迎していただいて嬉しいばかりです。皆さまの期待に応えれるようにライブ当日は精一杯歌わせていただきたいと思います。ここにいる皆様も私のことを応援してくださってる方も多数いるようで…… そうではない者もいるようですが、それはさておき、当日は楽しみにしておいてくださいね。では、引き続きお楽しみください」
キキの礼と共にスピーチが終わる。拍手喝采の中、俺はキキと目があったような気がした。
うーんやっぱり綺麗だけどまあまあだな。とりあえず仕事をしないと。お偉いさんを探さねば。俺はキョロキョロと辺りを見回しながら歩いて回る。
キキが壇上から降りてきたため、多数の者に囲まれている。やっぱりファンは多いのだろう。皆話をしようと必死なようだ。キキは笑顔で対応している。流石にあそこにいる者達に偉い人はいないだろう。俺はそんなことを考えながら、周りを見渡す。うーん、分からない。ちょっと休憩しよう。俺は食事を取って、中庭に出て夜風に当たることにした。コネクション作りは他のメンバーに任せることにしよう。
様々な種類の料理をプレートにとり、中庭に避難する。そこには誰もおらず、静かな夜が広がっていた。パーティ会場の喧騒とのギャップがいい。さっき怪盗の仲間と話したばかりの場所で俺は1人食事を取ることにした。
「ねえ、君、名前なんて言うの?」
「ん? ああ…… カミト、だが」
ベランダでの食事中に声をかけられたので顔を上げると、そこにはキキがいた。少し怒った顔をしている。俺が何かしたのか?
「カミトね。私のスピーチ中に失礼なこと考えていたでしょう? 意外と普通だなとか、スピーチ面白くないなとか」
「…… なんでわかったんだ?」
「私の魔法に心を読む魔法があってね。周囲にいる者の心を読み取ることができるの。特に他の者と違う感情を含む想いはノイズとしてよく伝わってくるわけ。この会場であなただけが私に対してネガティブな感情を持っていたからよく伝わったわ」
「…… ネガティブな感情を持っていたわけではないぞ。意外と普通だな、と思っただけだ。破天荒な感じかと想定していたからな」
「嘘ね。誰々と比較するとそこまで美人というわけでもないな、とか考えていたでしょ? そこまでわかるんだからね」
「すごい能力だな。すまない、比較してしまってな……。 ただ、そこまでわかるなら生きにくくないか? 色々なノイズが入ってきそうだ」
「まあすごい美人が近くにいるってことね。今度紹介してね。綺麗な女性は大好きだから。この能力を使うのは集団相手にだけって決めているの。悪意を持った者がいないか、護衛用ね。確かにいつでも使用していると生きづらいから封印しているわ。本音が聞けることが必ずしも良いっていうわけではないからね」
「確かにな…… 戦闘とかでは使えるのか? 相手の考えが読めるならかなり有利に戦いが進めそうだが」
「ええ、使えるわ。魔物相手だと何も聞こえないんだけどね。そうだ? 私と戦ってみる? 冒険者の皆に私の強さを示す良い機会になると思うわ」
「いいが、俺はLV3だからな、そこまで強くないぞ?」
「なら、何人か仲間はいない? 私1人VS複数でいいわ。剣や魔法は禁止なら圧勝できる自信があるわ」
「すごいな、そこまでの力があるのか。ちょうど俺のいるチームにLV3が後3人いる。1人は遠距離魔法担当だから除外するとして…… 1VS3でどうだ?」
「ちょうどいいね。今日のパーティの余興にしてもらいましょう。貴方には恥をかいてもらうけどいいよね? 私をまあまあと評価した責任を取ってもらわないと」
「はい……」
まだ見た目を低く評価したことについて根に持っているようだ。面倒なのでアリエッサやエリスを連れてきたい。目の前に連れてこればわかってくれるだろう。まあ余計ややこしい事態になる可能性が高いため呼ぶことはしないが。俺は大人しく指示に従うことにした。




