事前パーティ
俺は、情報屋から手に入れた内容を使者のホテルでアリエッサに伝える。アリエッサは考えている様子だ。夢の羽のメンバー、およびマルク、アンは皆アリエッサを見つめている。次に何を言い出すかによって仕事内容が変わるからだろう。
「ありがとうございます。こちらでも情報屋に当たったのですがほぼ同じ内容でしたね。あ、カミト様を疑っていたわけではありません。ヘッズオブドラゴンが裏で嗅ぎ回っているという圧力を怪盗にかけることで何かしらの動きが出るかと期待したのですが……」
アリエッサはピアノを弾くようにテーブルを叩きながら上を向いて考え込んでいる。
「表の世界、例えば飲み屋などでの情報収集はやめておきましょう。それはシールドオブワールドの役割と重なることになってしまい、面倒なトラブルが発生する可能性があります。なのでここからは待機ですね。皆様は通常の依頼に対応してください。次に動くのはコンサートの2日前、パーティーです」
「わかった。上の人やキキと仲良くなるんだろう?」
「そうです。連絡屋という女を探したいところではありますが、さすがに我々のような一般の冒険者が捕捉、確保できるとは思えません。向こうが接触することを期待するしかなさそうですね」
「了解だ」
コンサートの2日前。キキが、警備をする冒険者や警察関係者など関係者の慰労を兼ねてパーティーを開いてくれた。アリエッサとの話通り、俺達も参加する。サクラで1番良いとされるホテルの宴会場の貸切である。総勢数百名はいるだろうか。冒険者が多いようで、大柄で目つきが鋭い男性が目立つ。
「すごい豪華でね。ご飯沢山食べちゃおっと」
「おいおい、仕事を忘れるなよ?」
目を輝かせるアズサに呆れたように諭すライエル。ただアズサの気持ちはわからなくもない。部屋に端に広がるのは様々な料理。どれも非常に美味しそうだ。そして、食べ放題ということで既に皆群がっている。
「偉い人と仲良くならないといけないんだよね? でもこれだけ人が多いと誰が偉い人なのかもわからないね……」
「シールドオブワールドの幹部と話している奴が偉い人だと思うぞ。普通の冒険者ではジェフやセレナといったサクラ最高レベルの冒険者と話すのは気後れするものだ」
マルクの疑問に俺は推測を話す。今までの個人的な経験からしても、遠慮せずに上級冒険者と話せるのは上級冒険者に限るという暗黙の常識がある。高レベルの冒険者は癖がある者が多いため、同じ世界観を共有できる者でないと話をしづらいからだ。
「なるほどね。じゃあ僕はちょっと探ってみるよ。じゃあ後でね?」
「ああ、俺も探してみる」
「ああ、もう行くの? じゃあ私も行かないとね…… 私はシールドオブワールドの女の子と話してみるわ。何人か知り合いがいるから探ってみるね」
「了解だ。俺は、強そうな奴を探すよ。やばいオーラがピンピンとする奴なら何か役に立つかもしれない」
アズサとライエルも行ってしまった。俺はどうしようか……
「ねえ、貴方は夢の羽のカミトさんよね?」
後ろから声を掛けられたので振り向くと知らない女が笑いながらこちらを見ている。
「はい、そうです。何でしょう?」
「やっぱりそうね。自己紹介はできないの。ごめんなさいね。貴方は怪盗の何を知りたいの?」
「何のことでしょう?」
「とぼけるの? 情報屋を使って探りを入れてるのは知ってるわ」
遂に怪盗側から接触してきたか。こいつが情報屋の言っていた連絡役の女だろう。パッと見た感じ妙齢の美しい女性だが、隙がない。今の俺では手を出すことはできない高レベル冒険者であろうことは経ち振る舞いだけで想像できる。
「なるほど、とりあえずベランダで話しますか?」
「そうね、そうしましょう」
俺達は中庭に出る。中庭は人は誰もおらず、ただただ暗い土地が広がっている。
「寂しい場所ね。でもまあこういう所で話す方が雰囲気が出るかな?」
「で、どうして接触してきたんだ?」
「あら、気が早い男ね。そうねえ…… 見極めかしら。私達としてはヘッドオブドラゴンが介入してくる心当たりがないのよね。迷惑をかけたつもりはないんだけど」
「そうだな。ヘッズオブドラゴンとしても何か復讐をしたい、というわけではない。少し怪盗と話をしたいだけだよ」
「ああ、そういうことね。じゃあ飼い主に伝えといてくれる? 我々には関わらないで、って。何を言われても我々が誰かのために動くことはないわ。全ては自分達のためなの」
「そうか、残念だ。伝えておくよ。ただ、元々盗みに入ったところでご対面させてもらう予定だったから特に問題はないぞ?」
「面白いこと言うね。盗みに入るところを捕まえるの? 今まで誰もできたことないのに?」
「今回も上手くいくといいな。LV10の本気を見たことないだろ? お楽しみに取っておけばいいさ」
「いくらLV10でも所詮戦闘の話。あの人を捕まえるのは不可能よ。できればヘッドオブドラゴンには大々的に出てきてもらって、恥をかいてほしいわね。私たちの名声が上がるからね」
「わかった。そういう風に伝えておこう。じゃあ戻るか」
「あら、私を捕まえようとしないの? せっかくのチャンスなのに」
「俺じゃ捕まえれないことくらいわかってるよ。俺にできることは上のメンバーに伝えることだけだ」
「優秀なのね。じゃあよろしくね」
そう言うと女は一瞬で姿を消した。辺りを見渡すがどこに行ったのかはわからない。瞬間移動系の魔法の持ち主だろうか? しかし仲間が接触してきたのは良いことだ。これは後で共有しないとな。
「ご歓談中失礼します。ここで、当パーティを主催いただいたキキ様からのご挨拶です」
部屋に戻るとちょうどキキのスピーチのタイミングだった。
「キキ様を詳しくご存知ない方に紹介しますと、キキ様は15歳の時に歌手活動を開始し、10年間世界中を旅してライブをしております。世界で最も有名な者の1人であり、特に市民からは大変人気があります。そのため、コンサート以外にもグッズやコラボ商品など関連商品は非常に人気があり、まさに二つ名の「世界の歌姫」の通りの知名度と人気を誇ります」
「それではキキ様よろしくお願いします」
大歓声とともに入り口からキキが歩いてきた。皆注目している。正直それほどのプロポーションや美貌というわけではないが、1度目にすると見つめてしまうオーラを纏っている。これがスーパースターか。
キキ様―という声に手を振りながら笑顔で登壇する。
「えー、皆様。ただいまご紹介に預かりましたキキです。本日はどうぞよろしくお願いします」




