潜入潜入
次の日、夢の羽全員で、ライブに関する依頼がないか確認する。掲示板を見ると、「リハーサル及び当日の警備」に関する依頼が存在した。多数の冒険者を募集しているようで、これなら潜り込めそうだ。
「お話通りあったわね。この依頼を受ければいいんでしょう」
「ああ、そうだろうな。受付に行くか」
「すいません、この依頼を受けたいんですけど」
「ああ、ライブの警備ですね。ありがとうございます。人手が必要で、絶賛募集中だったんですよ。あそこに依頼主のシールドオブワールドの方がいらっしゃるので、お話を聞いていただけますか?」
冒険者ギルドの奥に、和やかな様子で会話をしている2名の冒険者がいる。受付曰く、彼がシールドオブワールドの団員らしい。
「すまない、ライブの依頼について話を聞けと受付から聞いているんだが」
「ああ、警備の依頼についてか? ありがとう、助かるよ」
「そうだ、この4名で依頼を受けたいと考えている」
「わかった。じゃあ僕の方からちょっと説明するね。まず、お願いしたい内容は2つだ。一つは入り口での観客の身体及び手荷物検査。これは禁止されている魔道具の持ち込みであったり、刃物や爆発物などの不審な物を持ち込もうとしていないかをチェックする仕事だよ。
もう一つはライブ中の巡回警備の仕事だ。こっちは、ライブ中に怪しげな行動をとる人物がいないかであったり、ライブ中の喧嘩のようなトラブルを阻止する仕事だね。
今、どっちも人員が不足して困っているんだ。良ければ2名ずつで担当してくれないか? あ、そちらの女性の方は検査の仕事をお願いしたいな。身体検査もあるので女性の観客の担当は女性がいいと考えているんだけど人手が足りなくてね……」
「わかりました。私は検査を担当しますね。誰が担当するかを検討したいのですが、それぞれ他の要件はありますか?」
「ありがとう。そうだね、巡回警備の仕事は接近戦が得意である方がいいかな。考えられるトラブルは喧嘩や不審者の制圧だから、肉弾戦で制止できる能力を持っている者がありがたいね。まあ難しいと判断したらすぐに上の者を呼べばいい。命をかけて戦う必要はない」
「ありがとうございます。じゃあ、ライエルとカミトが巡回警備じゃない? 私とマルクが検査でいいと思うんだけど?」
「そうだな、アズサの言う通りでいいだろうな」
「ありがとう。じゃあ2名ずつで登録しておくね。これからの予定だけど、次の木曜日にライブ前パーティがある。キキ様が警備を担当する冒険者や関係スタッフの慰労のために開いてくれる会だ。もしよかったら参加してほしい。
次が金曜日のリハーサルだね。ここで仕事の内容の詳細説明をするよ。後は練習なんかもする予定だ。ライブ当日と同じ午後7時からの予定だから、夜の雰囲気も実感しながら趣味レーションをすることになるね。これは必ず参加してほしい。
最後が土曜日の本番だね。7時からライブだから13時に集合して準備をすることになる。これももちろん必ず参加してほしい。
詳細は用紙を渡すから、これを読んでおいてほしいな。注意事項なんかが書いてあるからね」
そう言って渡されたのが1枚の紙だった。紙なんて久しぶりに見たな。高価だからあまり使われることがなく、せいぜい本や新聞に使われる程度だが…… この依頼への本気度が伺える。
「わかりました。そういえば今回ってかなり警備が厳重だと聞いたのですが、何かあるんですか?」
「ああ、ちょっとな。そのうち公式発表があるから待ってくれ。まあとはいえ警備自体の難易度であったりやることは変わらない。そこは安心してほしい」
「了解です」
まだ、怪盗については伏せられているようだ。怪盗のファンのような変な者を警備に配置することがないように、だろうか。
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「ヘッドオブドラゴンのアリエッサです。ジェフを呼んでもらえますか?」
その頃、アリエッサはシールドオブワールドの拠点を訪れていた。エッジとアンを警備に捩じ込むためである。シールドオブワールドの拠点は非常に大きく、初めてサクラを訪れた者はここが領主の館か、と勘違いするほどの豪華さを誇っている。何せサクラ最大のチーム。寝る場所や食事をする場所、訓練場所などを作るとそれだけの広さになってしまうだろう。
「ジェフ様がお呼びです。ご案内します」
緊張した様子の衛兵に連れられ、拠点の中に入る。門から入り口までは綺麗な庭となっており、水音が聞こえる中多数の花が咲いている。率直に言うとあまり冒険者の拠点っぽくはないが、ジェフのこだわりらしい。「無骨な感じだと緊張感を与えてしまうからね」と以前話していたのをアリエッサは思い出した。
「やあ、アリエッサ。どうしたんだい」
「珍しい客ですこと」
迎えられた部屋にはリーダーのジェフと副リーダーのセレナがいた。面倒な奴がいる、アリエッサは内心舌打ちをする。ジェフは物分かりがいいが、セレナはダメだ。マスター、とカミトを敬愛するアリエッサを非常に嫌っており、ハイエルフは至高の存在であり人間に従うべきではないといつも説教をしてくる。
「ええ、ちょっと相談がありまして。端的に言うと、今度のキキのライブ会場の護衛に私のチームメンバーを加えてほしいのです。具体的にはアンとエッジです」
「突然ですね。なぜか説明してもらえますか?」
訝しげな様子のセレナ。
「理由は話せないわ。こちらのチームの都合、ということでいいかしら。ただ、目的である怪盗の犯行阻止と確保には最大限協力するわ。それは約束する」
「ああ、君たちの怪盗の件を知ってるんだね。なら話は早い。2名ともLV6だっけ? 人でどれだけいても困らないから歓迎するよ」
「大丈夫でしょうか? 私は意図が読めない者を迎え入れるのは反対なのですが……」
「まあうちのチームの監視役でもつけておけばいいさ。LV6は貴重だ。最後の砦として役に立つだろう。まさか秘宝を盗むつもりでもないだろうし……ね?」
「ええ。もちろんです。私たちのチームに宝石に興味がある者はいませんわ。それに盗むなら領主の館を襲撃します。そっちの方が簡単なことはご存知でしょう?」
「そうだな。じゃあよろしく頼む。詳細は…… この紙に書いてあるから読んでおくよう伝えておいてくれ」
「わかりました。それでは」




