夢の羽のミッション
打ち合わせ翌日、いつもの集合場所で夢の羽のメンバーを待つ。まだ誰もきていないようだ。
「おはよう。今日はいつもより早いね」
声をかけてきたのはアズサだ。アズサはいつも時間ぴったりに来る律儀さを持っている。
「そうかもしれない。特に理由はないが…… 気分だよ気分」
「そう。まあ早めに集合するのは良いことよ。これからもよろしくね」
やんわりともうちょっと早く来るようにと怒られている。少し気をつけるとしよう。そんな話をしているとマルクとライエルもやって来た。
「おっす。すまない遅くなって。今日も良い依頼を探しに行くか!」
「すいません、夢の羽の皆様でしょうか?」
「ああ、そうだが。どちら様で?」
「私は姫の使者をしております。突然ですが本日18時にヘッズオブドラゴンの拠点に来ていただけますか? お話ししたいことがあります」
昨日の件だな。しかし他のメンバーは当然知らないので、少し緊張した顔をしている。
「わかった。今日のクエストが終わったら行くことにする」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。それでは」
という話もあり、受けた依頼は簡単で時間内に余裕を持って終わらすことができるものになった。具体的には薬草採取だ。
「なあ、姫の依頼ってなんだと思う?」
「姫の考えていることを凡人が把握できるわけないでしょ」
「うん、そうだね。まあでも最初の依頼だからそこまで大変な依頼ではないんじゃない? 様子見というか、実力を試されるというか」
誰が聞いているかわからないので、カミラ姫に関しては「姫」と呼ぶことにしている。姫ならこの国には3人いるのでギリギリセーフだろう。
「まあそうだろうな。そもそも何で俺達に声がかかったかもよくわかってないしな。聞いたらはぐらかされたよな? そもそも謎が多い話だ」
「確かに。まあただ報酬もいいらしいし、依頼は断ってもいいらしいし気楽に考えようよ」
俺たちは謎の依頼に関しては話をしながら薬草採取を続ける。薬草採取は魔物さえ来なければ気楽なクエストである。少し報酬は下がるがリスク少なく受けることが出来る依頼のため人気がある。
「まあとりあえず行ってみてだな。全てはそこから考えればいいさ」
「カミトの言うとおりね。今考えても仕方のないことよ」
「そうだな」
特に何事もなく薬草を採取し、クエストを終了させる。そのまま俺たちはヘッズオブドラゴンの拠点に向かった。ちょうど18時前の少し薄暗くなる時間だ。
「ここ来たことある人いる?」
「いるわけないだろ。メンバーも少ないし、依頼もなかなか受けないチームだぞ。中がどんな感じなのか気になるな」
「すごい豪華だったりするのかな? 楽しみだよ」
「夢の羽の皆様ですね? どうぞこちらについてきてください」案内役はアンだ。背も低く、穏やかな印象なので初対面では1番いい印象を与えるメンバーだろう。
「こちらへお座りください」
ラウンジに案内された。すでに着席しているのはカミラ姫の使者とアリエッサとエッジだ。エリスはいない。まあエリスはこういう打ち合わせで話すキャラではないからな。武力が必要とされる場面でもないし、いなくていいという判断だろう。
「さて、では会議を始めましょう。まずは使者の方から今回の依頼について説明してもらえますか?」
夢の羽側の4名が座ったところでアリエッサが会議を始める。相変わらず何を考えているかわからないアリエッサの表情が怖い。もう少し穏やかになればもっと人気も出るだろうに。
「はい、わかりました。それでは私の方から説明させていただきます。まず私はご紹介いただきましたとおり、カミラ姫からの使者を担当しております。どうぞよろしくお願いします。
今回の依頼についてはカミラ姫からのメッセージがあるのでそちらをご覧ください」
また例の魔道具が登場した。使者が魔力を込めるとカミラ姫が浮かび上がる。
「夢の羽の皆様。お久しぶりです。カミラです。……」
先日の俺達への説明と同じ、怪盗についての内容が続く。昨日聞いた話なので俺は適当に流す。
「皆様にお願いしたい依頼について説明します。皆様には、その怪盗と接触するための調査や仲介者役を担当いただきたいです。怪盗と接触することが今回のミッションになります。実際の接触はヘッズオブドラゴンが行いますので、その下準備を担当していただければと思います。具体的な業務内容についてはヘッズオブドラゴンと擦り合わせてください。
この依頼を受けていただければ依頼ライブまでの1週間、報酬は金貨10枚となります。依頼を成功させた場合、つまり怪盗と接触に成功した場合は追加で金貨10枚をお支払いします。いかがでしょうか? ご検討をよろしくお願いします」
金貨10枚の報酬だ。LV3、チームランク1が受けることができる依頼としては破格の報酬である。そして俺たちの時と変わらず成功報酬をつけるのだな。依頼される側のモチベーションをよく考えている姫様だ。
「なるほど…… 具体的には何をするんでしょう?」
「情報収集、及び当日の警備などの業務への潜入です。私やエリスやマスターが動くと目立ちすぎるので人手が必要です」
「は、はい、わかりました」
マルクの質問にアリエッサが即答する。マルクが怖がっているじゃないか。もう少し仲良くできないのか?
「やることはわかったが…… 目的はなんなんだ? 接触してどうするんだ?」
「申し訳ございません。それは現時点では開示できません」
使者が割って入る。怪盗を仲間にするというのは夢の羽には説明しない方向のようだ。そういえば姫様の目標についてもどこまで開示されているのか聞いていなかったな。シークレット事項なのかもしれない。まあ一応親衛隊のリーダーとされている俺と、一般部隊では与える情報にも格差があるのだろうな。信頼度やリスクが違うからな。
「とりあえず今、依頼を受けるか決めてくれる? 受けるなら詳細を話すし、受けないなら話はここまでよ」
「わかった…… この中でこの依頼を受けることに反対のやつはいるか?」
アリエッサに急かされて発せられたライエルの問いかけに全員首を振る。
「反対意見はなし、では受けさせてもらおうと思う」
「ありがとうございます。それでは今後はヘッズオブドラゴンの指示に従ってください」
「私が責任者を務めるわ。アリエッサよ。まずこちらから出すメンバーの紹介をするわ。エッジ、アン。この2名が今回の依頼で中心となって動くメンバーね。
とりあえず、貴方達には当日及びリハーサルの警備業務に潜り込んで欲しいわ。自由に動ける立場を確保して欲しいの。確かそんな依頼が出ていたはず。それを受けて欲しい。後、私達とは関係ない風に振る舞って欲しいの。それだとどうしようもない時だけ私が動くけど、そうでない限り接点はないように振る舞ってちょうだい。不要な注目を浴びるリスクは避けたいの」
「わかった。依頼を確認する。潜り込めたら連絡するよ」
「ええ、それでお願い。明日1回夜に打ち合わせをするようにしましょう。場所はここだと目立つから使者が使っているホテルでいいかしら?」
「私は問題ないです。少し狭いかもしれないですが」
「なら、皆が入れる部屋に移動してくれる?」
「……わかりました」
「とりあえず明日18時にホテル「虎の尾」の入り口で集合ね。それまでに依頼を受けて詳細を確認しておくこと」
アリエッサがビシビシと指示を出していく。俺たちは黙って頷く事しかできなかった。怖いよほんと。
「ふう、疲れた。とりあえず依頼確認は明日だな。今日はもう遅すぎる」
「アリエッサ様の威圧感が凄すぎるわ…… 2倍疲れが溜まった気がするんだけど」
「今日は解散だね。帰って寝よう。じゃあまた明日」
会議が終わり、俺達も解散する。さて、明日からいよいよ活動開始だな。俺はワクワクした気持ちを抱いていた。有名な大泥棒を捕まえる、なんてなかなかないイベントだ。楽しむしかない。




