推理と提言
翌日の朝。夢の羽と、イオン・リバティのメンバーが銀の雫に集結する。俺、ライエル、マルク、アズサ、ナタリー、メアリー、ヴェラの7人だ。
「よし、じゃあ早速各自の推理を披露しよう。まず誰から話すか?」
「じゃあ私から!
呼びかけるライエルにメアリーが答え、メアリーから推理を披露することになった。
「私が考えたのは、今回の事件の目的は左手を並べることにあったってことかな。あれは誰かへのメッセージなんだと思う。左手を10本並べたら合図だ、と事前に決めておいて、何かアクションを起こそうとしているんじゃないかな」
「ありがとう。なるほど、その可能性はありそうだな。しかし、まだ何も起きていないからなんとも言えないな……」
ライエルが考え込む。
「そうね、可能性はあるけど犯人を絞り込むのは難しいわね」
アズサも難しい顔をしている。確かに可能性としてはある示唆だが、事実が揃わなすぎて難しいな。
「とりあえず、どんどん披露していこうか。次は誰だ?」
「じゃあ僕が。僕が考えたのは、左手を切ることはたまたまだったということだね」
マルクが説明を始める。
「犯人は、魔道具が刀の切れ味を試したかったんだよ。それで色々な種族の冒険者を殺害したんだ。で、左手を10本連続で切断することで切れ味を確かめたってわけ」
「その発想はなかったわ。でもそのためだけに何ヶ月もかけて冒険者を集めたの?冒険者が行方不明になった期間もバラバラよ。そう考えると、同じことがメアリーの推理にも言えそうね。メッセージを発信するなら冒険者をまとめて殺害した方が効率いいわ」
ナタリーの指摘はもっともだった。確かに冒険者の行方不明になったタイミングはバラバラだ。10本並べることに意味があるならもっと効率よく殺害するだろう。
暗雲が立ち込めてきた。よし、ここで俺の推理を披露するとするか。
「次は俺から説明させてくれ。俺の推理はこうだ。今回の件は、アンデットを大量に呼び出してどこかを攻撃する陰謀ではないか、と考えている」
俺は説明を始めた。
「10本の左手は、二人の推理や警察の考える猟奇的殺人の可能性を出すためのフェイクだろう。時間をかけて殺害し、目的を達成したため騒動になる前に手を打ち、捜査の撹乱を行った。これが矛盾のない考えだ」
「なるほど。続けて」
アズサが頷く。俺も頷き話を続ける。
「では、目的とは何か? ここで、最近サクラに起きた大きな変化が一つある。ミオが話していたり色々なところで耳にするので皆聞いたことがあると思うが、最近LV7相当の強力なボスが仕切る盗賊がサクラで活動を始めたということだ。彼らは薬物や危険な魔道具をばら撒いていると聞いている」
「この事件が発生したタイミングと時期的に一致するんだ。そして、色々情報収集する中で、一つの魔道具が浮かび上がった。それは血を生贄にアンデットを召喚する魔道具だ。アンデットは満月の夜にLV5相当に強化される強力な魔物だ。満月は明日の夜。これも時期的にも一致する」
「これも入手した情報だが、亡くなった冒険者の共通点として「生きている間に付けられた傷が左手にあった」らしい。傷から血を回収したのではないか? それでアンデットを召喚し、どこかを攻撃するのではないか? これが俺の推理だ」
「なるほど、筋は通っているな」
ライエルにそう言われて少し嬉しい。他の皆も同意してくれているようだ。
「確かに違和感はないね。でももしその推理が正しいとして、どうするの?」
マルクの疑問ももっともである。俺は考えていたアクションプランを披露する。
「今から怪しい魔道具を販売する魔道具屋に捜索をかける。そしてアンデットを召喚する魔道具を最近売らなかったかを問い詰めるんだ」
「正直に話してくれるかなあ?」
「実は俺は、サクラに来たばかりの時にシールドオブワールドにお世話になったんだ。サクラ最強の一角を担うチームの捜査なら正直に話す人が出てくるだろう。お世話になった人に捜査できないか相談してみようと思う」
「それが出来るならいいね。カミト頼みになるけど大丈夫?」
「ああ、任せてくれ」
「じゃあカミトはその方向で動いてくれ。他に推理を披露したい奴はいるか?」
「私はパス、メアリーと同じ矛盾がクリアできないわ」
「私も無理です」
「…… 同じく……」
「よし、じゃあ一旦この場は解散しよう。カミト頼んだ」
俺は銀の雫を出ると、その足でシールドオブワールドの拠点を訪れる。途中の物陰で変身は解除した。ここからはLV10のカミトの出番だ。
「ヘッズオブドラゴンのカミトだ。ジェフと話がしたいんだが、可能か?」
門番に話しかける。
「はい、少々お待ちください! 声をかけてきます」
門番は緊張した様子で飛んでいった。しばらくすると、ジェフが顔を出す。
「珍しいね。どうしたんだい?」
「ちょっと話がある。部屋を用意してくれ」
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