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電線電車

作者: 大西洋子

補助輪が外れ、どこまでも行けるようになった自転車を電車に、道路に落ちる電線の影を線路に、ぼくはどんどん進む。

駅の側の踏切を超え、その先の十字路はパパに教えてもらった通りに渡り、ずんずんずんずん進みに進み、電線線路が道路からいなくなってから気づいたんだ。ここはどこ? って……

立ち止まったT字路のその先は、田んぼ、田んぼ、田んぼ。田んぼの向こうにぽつぽつと建物が見えるだけ。

ぼくが住んでいる住宅地とは大違い。自転車を止め、ぐるりと辺りを見回すと、右手に山が迫っていた。

山? ぼくが住んでいるアパートの三階の北側の窓から見える山かな? だとしたら、ぼくはとんでもなく遠いところまで来てしまったみたい。

うわぁ、どうしよう、どうしよう。

ぐるぐるぐるぐる。

……あ、そうだ、来た道をそのまま引き返したらいいんだ。

えっと、電線の影、電線の影、電線の影は…… な、ない! さっきまで道路の端っこに電線の影があったのに。

青空はいつしか曇り空。ぼくの影がなんだか弱々しい。

うわぁ、どうしよう、どうしよう、どうしよう。お家に帰れないよぅ。こんなことなら、電線の影を線路にするんじゃなかった。

……あ、まって。電線があるということは、電信柱が近くに必ずある! 電信柱に沿って進めば、ぼくが知っている場所にきっと辿り着くはず。

ぼくは泣いてなんかいないぞ。

目尻の水を指先で拭い前を向く。

ぼくは電信柱見つけ、来た方向とは逆に次の電信柱へ、さらに次の電信柱を目指して進む。

早く見覚えのある建物が早く見えてこないかな。いくつも十字路を渡ったけれど、車も自転車も通らなかった。

ゴロゴロ……

空から嫌な音が。見上げると黒々とした雲が空一面に広がっていた。

やばい、やばい、やばい。これは絶対の絶対、雨が降るやつ!

ぼくは自転車を立ち漕ぎする。自転車の速度がぐんとあがる。

雨宿りできる場所、雨宿りできる場所、雨宿りできる場所はどこ?

「あっ!」

もう一つ先の十字路を山裾目がけて走る一台の自転車が見えた。そしてその自転車が向かう先に、フェンスに囲まれた公園が。

ポツリ、鼻の頭に雨粒。自転車に乗ったまま、その公園に滑り込み公園全体を見渡す。

やった、屋根付きのベンチがある。あそこで雨宿りしよう。

ぼくは自転車を止め、屋根の下に向かって歩いて行くと、

「「あっ!」」

そこには先程見た自転車と、ぼくより頭一つ大きい男の子が。

「見たことのない子だね。俺、ゆうらい。もうすぐ一年生だよ。君は?」

ぼくと同じ一年生になる子だ! それにしても大きい! ぼくは目を丸くしながら名を名乗った。

「そうか~ どこにすんでいるの?」

ぼくは人懐っこい笑みを浮かべるゆうらいに答えた。知らない人に、住んでいる所を教えちゃいけないと言われていたのに。

「じゃあ、同じの小学校に通うことになるんだね。よろしく。ところで、駅前近くに住んでいる君がなぜこんなところにいるの?」

「んとね……」

ゆうらいに笑われるかな? と思いながら、おそるおそる話し出す。すると、

「ああ、わかるわかる。ぼくもがたーんごとーんと言いながらね遊んでいたんだ」

そこから、お互いどんなことして遊ぶのが好きなのか話しているうちに、雨が降っているのかいないのか、わからないくらいの雨に変わっていた。

「これぐらいの雨なら、帰れるね」

「うん」

ゆうらいが自転車を押しながら屋根下から出、ぼくにふりかえる。

「ねえ、これからぼくたちが通うことになる小学校に行かない?」

「えっ?」

「そこから、君の住んでいる駅前につながる通学路を教えてあげるし」

あああ、通学路! すっかり忘れていた。

「ありがとう!」

「じゃあ出発進行。次は小学校前、小学校前~」

ぼくたちは自転車に乗り、一列になって公園を出て行く。

がたーんごとーん、がたーんごとーんと、電車の音を真似しながら、もうすぐ通うことになる小学校に向かってペダルをこぎだす。



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