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第九話

 

「テア、大丈夫かい?」


 うううぅという唸り声しか出ない。

 サムリが腰をさすってくれるのはいいけど、そこじゃない~そうじゃない~……涼しい顔しててなんか腹立つ~。(←八つ当たり)


 生まれ変わっても難産って、理不尽~っ!


 朝、陣痛が始まって、既に日付が変わる真夜中である。


 私たち一行は、修太郎君が眠りについてから六年かけて、百一個の魔道具を埋めた。

 決して順風満帆ではなかった。

 父様を失った。

 北の国に戻した母様も病を得て旅立った。

 少なくない仲間を失った。


 それでも私たちは足を止めることなく、魔道具を埋め、やりきった。

 驚いたことに、黒の森と接する国は、私たちがしようとしていることを把握して、水面下で協力をしてくれた。全面協力と言ってもいいくらいだった。


 私は二十五歳になっていた。


 子どもはこの仕事が終わってからとサムリと決めていたが、……少々早いタイミングで妊娠し、私たちの旅の終点となった東の国で、今唸っている所である。


 いた、いたたたああーあー……っ!!


 痛みは永遠かと思ったけど、朝日の前に産声を聞くことが出来た。


 玉のような男の子。

 ……勝手にまた女の子だと思っていたから、拍子抜けしてしまった。

 私はテア。文代の人生をなぞっているわけではないのに、思い込みって、自分の知らないうちに自分を縛るんだな。


 サムリと同じ黒髪に深い緑の目。

 とても可愛い。


 サムリがシュリと名付けた。

 この世界は、精神系の魔術から身を守るために真名を隠す習慣がある。真名をもって魔術をかけられると、魂まで縛られやすいのだ。

 私の真名はアルテア。父様が付けてくれた名だ。父様も母様も亡くなった今となっては、私とサムリしか知らない名だ。

 シュリの真名はシュリヒト。

 この東の国風の音ではあるけれど、名前としては聞き馴染みのないもので、驚いた。

 前世の外国語で、素直を意味する言葉。

 私も唯も、もー君も、意地っ張りだった。もっと素直になれていたら……と思うことがたくさんあったし、実際、もー君とそう反省もしていた。


 (サムリ)は、記憶は無くても(もー君)なんだと、涙が出た。

 良い名だと噛みしめた。


 赤子のシュリとゆっくり北の国への帰路についた。


 母と私がそうしたように、シュリが五歳になるまで、私とシュリは北の国で留守番をし、サムリと商隊を二回見送った。

 今まで黒の森沿いのルートで行商をしていたので、今度は国の外側を回り、時には黒の森に接していない国々も回っての行程とした。一回出ると帰ってくるまで二年程かかった。


 シュリは大した病気もせずに、やんちゃで甘えん坊に育っていた。

 うん、甘やかして育てましたが、何か?

 だって、本当に可愛くて仕方ない。


 構ってあげられなかった唯への罪滅ぼしだなんて言わない。

 私は私。私が今出来ること、やりたいことをするだけ。


 私の子どもというくくりで、姉弟のようだと勝手に思っている唯とシュリが、いつかこの世界で出会い、助け合う未来を望んでいたりするけれど、私の都合の良い夢だとも思っている。この広い世界で、もしもそれが叶うとしたら、便利な言葉『運命』ってことにしておこう。







「お母さん、……ダメ?」


 上目使いのシュリ。

 この子は自分の使い方を心得ておる。


 シュリに手を引かれているのは、唯。


 実にあっさり運命来たなぁ……。


 五歳になったシュリを連れて行商に出て約二年。ゆっくりと進みながら行商していたら、東の国で落ち人が保護されたと聞いた。


 唯が、来た。


 ピザまんを買いにコンビニに行っただけの唯が、東の国に落ちて来た。

 奇しくも行商の折り返しは東の国、これから向かう国である。

 逸る気持ちを静めながら、東の国の王都に入って割とすぐのことだった。


 シュリが商隊で雇って欲しい人がいると連れてきた。


 唯。


 もっと、感情が氾濫するかと思っていたけれど、意外に凪いでいる。


 子どもっぽさが抜けて大人びた。

 ……少しやつれている?


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