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第六話

 

 目の前には震えている女の子。

 泣いているんじゃない。

 笑い死にしそうになっているのである。


「ピア様……」


「だって……お父様を……あはっ!! いい気味!!」


 二人で話がしたいと部屋に()もった四十男と五歳女児を心配して、母様と代官様とピア様が部屋に様子を窺いに来た。


 ドアが開いた瞬間と私が修太郎君をぶっ叩いた瞬間がシンクロ率百パーセントって、どんな奇跡なの。


 ドアが開いて目撃されているのに気が付かなかった私は、『クズか』『ハゲろ』『反省なくばもげろ』と修太郎君を罵って更に叩いていた。


 五歳児の攻撃なんか大したダメージじゃなかろうに、修太郎君は涙目のまま、『やめて』『ごめんなさい』『ハゲはイヤだ』『もがないで』と蹲って叩かれるままになっていた。


 慌てた母様に拳骨を食らって止められた私は(下手したら致命傷だったと思う)、グズグズ泣きながら母様に全てをゲロった。後ろに代官様とピア様がいるのに気が付かずに。


 そして大爆笑のピア様に繋がるのである。


「お父様の叔母様は……私の大叔母様ね! ふふふ、『クズ』って良い響きね!! 意味も最高!!」


 唯によく似た顔で唯とは違う笑顔で父親をディスる八歳児、何て素敵。

 私とピア様はすぐに打ち解けた。

 そして八歳児は爆弾発言をした。


「お母様は結婚はしたくないけど、優秀な魔術師の子種は欲しかったから、お父様とお母様はある意味お似合いなのよ!!」


 この世界の倫理観はどうなっているのだろうか……と、心配した私は五歳ですが、何か?


 そうして、巻き込まれ事故のように事情を知ってしまった代官様を味方に引き入れ、修太郎君とピア様と交流を続けた。


 修太郎君は黒の森を完全に解き放つと言った。

 封じるのではなく、解き放つと。

 それが意味するのは、黒の森から不定期に魔物たちが溢れる現象には原因や理由があり、修太郎君はそれが分かっているということだ。


 唯のためと言いながら、心優しいあの子は、この世界での大切な人たちをも守るのだろう。

 きっと自分の()()を使って。

 それが、唯を独りにしてしまった自分に出来る償いだとでも思っているに違いない。


 修太郎君の本懐を遂げさせてやりたい気持ちもあるが、修太郎君は分かっていない。

 修太郎君自身も義治さんや小百合さん、もー君や私にとって『唯』のような大切な存在だということを。

 もちろん、唯にとっても。


 だから、私の天恵を使って、修太郎君の計画を少々軌道修正することにした。

 修太郎君に勘付かれるへぼはしない。なんて言ったって、ピア様が私の味方なのだから。







 雪深い北の国でスクスクと育った私は、無事に成人を迎えた。十五歳である。

 十五歳で成人って、義務教育が終わったばっかりで、私はちゃんと大人になれるだろうかと思っていたけど、生まれた時から精神はほぼ大人だったから、特に何とも思わなかった。


 この世界の子は前世の国に比べたら早熟だ。人の生き死にがすぐ隣にあり、働かなければご飯が食べられず、死ぬ。皆、自分の背負う仕事に責任を持って生きている。寿命もだらだらと長生きしない。命を繋ぎ育て、知恵を繋いだら大地に還っていくのだ。


 なんか、生き物として健康的だなって思う。


 前世はあんなに終わりを望んでいたのに、今世は精一杯生きて、それが短かろうが長かろうが、歳ではなく、死ぬまで生きるのが当たり前だと思う自分がいる。


 間違いなく父様と母様のおかげである。

 私が十歳の時、母様はお腹の子を死産し、その後、子を望むのが難しくなった。

 (テア)がいるから幸せよと微笑む母様だが、夜、家の裏のお墓に泣き伏しているのを何度も見かけた。

 生きて産んであげられなくてごめんね、と。


 弟だった。

 産声を上げていないだけで、とても可愛い赤ちゃんだった。

 目を開けることのなかった可愛い弟。別れはとても悲しくて悲しくて、三日三晩、父様と母様と私で抱っこし続けて、泣く泣く小さな棺桶に寝かせた。母様と一緒に縫った産着やおくるみ、肌着や靴下を一緒に入れて蓋をした。


 弟は母様のお腹の中で精一杯生きて、大地に還った。

 私の命は自分だけのものではない。

 私もいつか還る日まで生き続ける。


 それは、私の中の揺るぎない教訓となった。


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