表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

第三話


「シュウ様のご息女、ですか?」


「そうなの。ピア様とおっしゃるのだけど、来月、シュウ様がこの町にいらっしゃる時に同行して来られるそうなの。同年代の子どもたちとの交流を、というわけで何人か集められるのだけど、テアも参加してちょうだい」


 シュウ様はご結婚はされていないが、王家筋の女性との間に子どもをもうけていた。なんで結婚しないのかは分からん。異世界人とはいえ、この国と世界を守った魔術師である。王家は諸手を挙げて迎え入れそうなものだが、同時期に世継ぎの第一子となる王女殿下が誕生しているので、大人の事情なのだろう。母も「色々あるんじゃないの?」と、特に興味もないようだ。

 ちなみに、この国の王は女王陛下である。王配殿下は黒の森の討伐で活躍した騎士で、お二人とも国民から絶大な人気がある。


 シュウ様は王族でも貴族でもないが、この国において魔術師は生まれに関係なくその地位が高い。特に王宮に勤める魔術師はその辺の貴族よりもはるかに権力を持っている。


 大人の世界は複雑である。


 シュウ様のご息女であるピア様は八歳。

 小学二年生が年中さんと交流って言われても困らんか?


「あなた自分が五歳だと今更主張するつもり?」


 ……母様が強かった。


 そして迎えたピア様との交流会。

 町の代官様のお屋敷を借りての会である。


 私は言葉を失った。


 そこには、恐らく一緒に交通事故で死んだであろう前世の夫にそっくりでありながら、昏い金髪に鈍く光る金色の瞳の男性が立っていた。

 その横には、更に明るい金髪に金色の瞳の女の子。


 私の愛しい唯にそっくりな女の子が立っていたのだ。


 思考が一瞬真っ白になった後、考え得る可能性が頭に溢れ出した。


 もー君、死んでなかった?

 事故でこの世界に飛ばされたの?

 じゃあ、その髪と目の色は何?

 こっちで結婚したの? 触れるのは私だけと言ったのに、他の女性と子どもを作ったの?

 その子は、唯の、妹なの?


 私は。……『私』は死んだ。死んでしまったのに。もー君は生きて、他の人を好きになったの?


 そう思うと(たま)らなかった。


「うわあ゛あ゛あああぁぁぁ!!『もー君のぶぁあかぁっ!!』あああああ!!」


 会った途端、急に大声で泣き出した私に、周囲の人はぎょっとして固まってしまった。


『え……もー君って……文代おばさん? なの?』


 ただ一人そう呟いたシュウ様を除いては。







『落ち着いた?』


『落ち着くはずない』


 ズビビッと、シュウ様に借りたハンカチで遠慮無しに鼻をかんだ。

 独り言以外で久しぶりに聞く日本語に、胸が締め付けられて涙が止まらない。

 別室を借りて、今はシュウ様と二人きりである。


 心配する母様を押し切って別室に来たけれど、あれは後でねっちりと事情を聞かれるだろう。


 でも、今は二人で話がしたい。


 シュウ様は修太郎君だった。


 もー君のお兄さんの義治さんと小百合さんの息子。『私』の甥の修太郎君だった。

 もー君と義治さんは系統は違っても造りはよく似た兄弟だった。義治さんはどっしり、もー君は細身。修太郎君は義治さんより小百合の方の家系に似ていたのに、大人になって義治さん寄りになっていた。つまり、もー君にとても似ていた。


 懐かしい、愛おしい面影がそこにはあった。


 聞けば、修太郎君は二十九歳の時にこの世界に落ちて来たという。(文代)が死んだ後に、(テア)が生まれる前のこの世界に落ちて来た。……生まれ変わりって時間がかかるのだろうか。


 修太郎君は魔術師になって、黒の森を収束させ、それからこの世界で生きてきたという。


 短くない時間をここで過ごした修太郎君は四十歳になっていた。


 向こう(日本)の話が聞きたいけれど、怖い。

 ここに落ちる前、二十九歳の唯とはどうなっていたのだろうか。結婚は? 子どもは? 修太郎君がここにいるということは、唯は今ひとりぼっちなのだろうか。

 一人っ子の修太郎君がいなくなって、小百合さんたちはどれだけ悲しんでいるだろうか。


 修太郎君はここで生きて、家族がいる。


 聞きたい。けど、手が震えてしまう程、怖い。


『文代おばさん、唯はね、……おばさんたちが亡くなってから、一人で引っ越して学校も転校してしまったんだ。そして、どこにもいなくなった。……僕は上手く話す自信がないよ。だから、僕の記憶を見て』


 そう言って、修太郎君はしゃがんで私と目線を合わせ、右手で私の額に触れた。


 ぶわっ。


 魔力と共に流れ込んできたのは、修太郎君の記憶。

 唯が大好きな修太郎君の記憶。







 修太郎君の叫び。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ