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やっと続きを書きました。

スローペースですが頑張ります。



 さて。


 衣食住は何となく困らないと予想できたので、拠点をどこにするかを考えなきゃだ。ゲーム中の色々な権限を考えたら、メインキャラの家よりサブキャラの家を使った方が良いかな。


(向こうはフレが来る可能性があるしなー)


 プレイヤー間で売買が出来るシステムがあるけど、メインキャラクターの家に個人のお店として設置していて、ゲーム内で親しい人に割安で売っていた。もう品物を補充してはないけど、彼らが懐かしさに訪れたりするかもしれない。遭遇する可能性の高い場所より、サブキャラの家の方が気楽だ。少しだけ、少しだけ胸が痛む。


 実際、会ったりしたらどうなるんだろ。

 チャットとか出来るのかなぁ…。


 SO、と小さく呟いて空中に画面を表示させ、困ったときは、に指を伸ばす。


「ねぇ、中村さん。フレと会っちゃった場合どうなるの?てか、私、リアルではどう表示されてるの?さすがに非表示だよね?チャットも来ないし」


 フレンドや入っているギルド(プレイヤー同士で作るグループみたいなもの)から、キャラクターが現在ログイン中か、どこのサーバーでどこの場所にいるか確認できるけど、表示させずにログインする変則もありだ。それは個々の事情があるから詳細は省くけども。

 ギルドチャットは個人じゃないので、誰かかれかの発言が聞こえて(見えて)くるはず。それがないから非表示だろうという結論だ。

 休止中SNSは見なかったけど、おそらく「どうしたの?」とフレから連絡が来ているだろう。ましてログインなんてしていれば個別にチャットが入りまくるはず。心配させといてここでバッタリ会っちゃうのはね…。しかも向こうは画面の向こうからこっちを見てるわけだし。大変気まずい。


『ソモソモ名前ヤIDデ分カッテシマウノデ、アチラカラ見タIDハ既二変更サレテイマス』

「優秀、というか手回しがいいというか」


 IDというのはキャラクターごとの認識番号であり、通常変更は出来ない。ストーカーや嫌がらせ被害者からすればIDを変えて逃げたいとこだけど、加害者側が逃げやすくなる方が問題なので致し方ない。

 私の場合はシステム側が協力者だからその辺は楽だ。出来れば名前も変えた方がいいというのでそうする事に。バレそうになったら強制終了、この世界からログアウトとの事。

 そんな簡単に身バレは勘弁してほしい。


 せっかくだから可愛らしい名前を、と思ったけど、文字制限があるんでいかにもラノベにありそうな難しいのはつけられない。女子っぽくスイーツをもじったなんか良さげなのを考えてみる。流行りのものを思い浮かべた時、いつも名前がでてこないソレが頭を掠めた。


(なんだっけ、あのマトリョーシカみたいな名前の流行りの生クリームいっぱいの…うーん、ええとマリトッツォだ!)


「名前は『マリ』でお願い」

『了解シマシタ』


 ようやく思い出した名称を少しもじって、ありふれた名前にした。言いにくいのも奇抜なのもよろしくない。満足。


 サブの家は中には入れないようにされていて、別の場所に建てた家の扉を前の家に繋げているらしい。良かった、ハウジングとか一からやり直しなんて、3D酔いする私には地獄だ。


 これでバレる心配はなさそう。

 私が口を滑らせなければ。うん。


『デハ続ケテ、衣装ノ変更モオ願イシマス』


 服も身バレの要因だから、と、登録された衣装を一時的に別所に記録保管し、私は別で作るよう言われた。有料の衣装もガチャでしか当たらない貴重な衣装も、無料で使い放題なんてラッキー。

 『ドレスアップルーム』と呼ばれる、衣装の見た目合わせの為のシステムを開くと、どこぞの衣装部屋みたいなりっはな部屋に飛ばされた。


 またかーい。


 ただ、ここでは一部のシステムは使える様で、そこらもゲーム仕様といえばゲーム仕様だった。

 で。問題が一つ。

 ここで毎日服を着替えしたらいいんだけど、下着はどうするか。

 またしても暗黙のルールみたいになっている『触れてはいけない案件』にぶつかってしまった。

 流石に下着はこの世界のものだろうけど、興味はあっても質の面とか色々不安があるんで、後で街へ見に行くしかない。

 最悪、寝る前に洗って乾かして履く、という方法をとるけど、出来ればドレスアップルームに保管していつでも交換できる環境にしておきたいのが乙女心ってもんだよね。

 この世界で冒険することは、戦闘以外はキャンプみたいなもんだろうけど、カンスト済みとはいえ実体を持った今、モンスターと戦う勇気なんてない。あるわけない。いや、魔法をぶっ放してみたいって興味はあるけど。ほんのちょっとだけ。

 実際モンスターを間近で見て普通にしていられるとは思えないわ。現代っ子、というには角が立つけど、格闘技も何の経験もない女にはむりむりカタツムリだ。昔のシリーズにあった、魔物よけの聖水が欲しすぎる…!


 私の目的はスローライフを楽しむ事。

 画面としてじゃなく、この世界を『自分の目で見る景色』として記憶に残したい。所謂聖地巡礼、ってやつだ。

 せっかく時間はたっぷりあるんだし、転移とかじゃなく、乗り物に乗って移動しながら景色を楽しみたい。


「ゲーム中はAIの仲間がいてくれたけど、これからはどうしたらいいんだろ。戦闘中だけ出てきて戦う、陰陽師の式みたいな扱いになる、とか?」


 陰陽師の人が紙で作った人形の式神を使って戦う感じを想像する。うん、かっこいいけど呪文とか爆風でぶっ飛びそう。

 うーん。

 自動で戦ってくれる仲間がいるなら遠出もいいが、自分一人で冒険なんて、即死亡→教会で復活、のコンボだ。

 痛くないにしても死ぬのは怖すぎる。


「ねね、中村さん。戦闘のサポートしてくれる仲間とかってどうしたらいいの?普段みたいに雇えるの?」

『ゲームノキャラクターヲ雇ウ事ハ出来マセン。代ワリニ、コノ世界デノ冒険者ヲ酒場デ雇ウ事ハ出来マス』


 ほうほう。

 それってAIじゃなく、意志を持った人間を雇うって事?

 面白そうではあるけど、護衛目的で、ってなるのかな。レベルカンストしてるのに?いいのか?それ。

 しかも理由が聖地巡礼って…怪しさ満載だわ。

 何か特殊な植物とか石とか、それらしいものの採取って依頼した方がいいかもしれない。


「まずは酒場見学といきますか」


 住宅から近くの街へ転移する。

 浮遊感を感じて怖くて目を閉じたら、次の瞬間にはしっかり足が地面についていた。ガヤガヤとした喧騒が耳に入り、おっかなびっくり目を開ける。


「わぁ…ほんとにあの街がある…!」


 感動して思わず声を出す。

 現実ではない世界なのに、今の私には確かにこの世界は存在していて。風も、匂いも、確かにここ(・・)があるのだという事実を強く感じさせる。


(―――ああ、ここに来て良かった)


 嬉しさに滲んだ涙を袖でこすり、目的の酒場へと歩き出した。



 このゲームには冒険者ギルド、みたいなシステムはない。

 それに代わるのが酒場システムで、旅の仲間とはそこで出会い、別れる。一定のお金を払って雇い入れるそれは、確かに護衛契約みたいだなぁ、と今更思う。


「いい人が見つかるといいんだけど」


 カランコロンと軽やかなベルの音を鳴らしながら扉を開ける。

 昼間だというのに店内はなかなかの賑わいだ。

 真っ昼間からお酒なんて、流石冒険者家業だなー。


 一通り見渡せば、壁に貼られた紙が目に入る。そこには難易度様々な依頼が書かれていて、気に入った依頼があれば紙を剥がしてカウンターに持っていくシステムのようだ。

 護衛依頼の紙はないのかざらっと目を通す。依頼金額がどの位か参考にするためなんだけど、パーティ募集の依頼書はあれど、目的のものが無い。

 仕方ないからカウンターにいるお姉さんに話を通してみようかな。そもそもの貨幣価値がよくわからないし。お金だけはたんまり貯めてたから心配いらないでしょう。


「あの、すみません。ちょっといいですか?」

「はい。どうされました?」


 お色気たっぷりに挨拶されなくてよかった。

 いや、ゲーム的にはそっちの方で正解なんだけども。


「ここでは護衛の依頼って取り扱いがありますか?あれば依頼金額の目安とか教えてほしいんですが」

「勿論ありますよ。犯罪的な依頼以外は何でも、というのがウチのウリですから」

「は、はぁ…」


 なにそれ怖い。

 冗談なのか本気なのか、お姉さんの笑顔が怖い。


「一般的な護衛―――街から街へのものは一日につき1人1万ゴールドですが、街道から外れるようなものだと危険手当として上乗せされることになります。こちらは交渉次第で金額は変わりますが、場所によっては上位の冒険者でなくては厳しいので、安全をとりたいのであればそれなりの金額をご用意したほうが良いかと」


 まぁそりゃそうよねー。

 最弱代表のスライムしか出てこないような場所と、トロルとかドラゴンとかわんさと出るとこじゃ難易度桁違いだし。腕のいい冒険者を雇うには高いお金を払ったほうがいいってことか。当然の話だわ。


「あの、例えばこの辺りだとどの位のレベルの方が必要ですかね?」


 地図があったので、魔王がいる場所の近くのダンジョンを指してみる。魔王っていってもあれよ、ファーストな魔王なので、今の私のレベルじゃ雑魚なんだけど。

 魔王(ボス)はストーリーが追加される度に増えるのだ。


「え?こちらですか…うーん、そうですねこちらはもう既にダンジョンボスが討伐されているので、現在ですとF難易度となります。よって、Dランク以上のパーティをお勧めします」


 へぇ―――!

 そうやってランク付けされちゃうんだ!面白い!


 とりあえず思いつくまま行きたい場所を示すと、お姉さんはうーん、と難色を示す。

 ありゃ、難しい依頼になっちゃう?


「目的地の難易度がバラバラなので、場所によってパーティを替える方法もありますが、それならいっそ最初から高位ランクのパーティと期間契約したほうがいいかもしれません。高位ランクの冒険者は人気がありますし、自分達だけで別の依頼を受けたり、レベル上げにダンジョンへ籠もったりもするので、時期によってはなかなか予約が取り難かったりしますから」


 あーはいはい。

 アップデート後に追加されたりする新マップだったりダンジョンへ行くのは、なにも現実世界の私達だけじゃないって事ね。

 出払ってるパーティが多いってことかー。

 カンストレベルが上がったり、ボスの難易度が変更されたり。

 リアル世界の影響がこんなとこに出るとは。


「えーと、私は戦闘はなるべく避けたいので、逃げるを重視してくれる方でお願いしたいです」

「逃げる、ですか。ええと、失礼ですがレベルを拝見しても?こちらにお願いします」


 黒い板のようなものをカウンターに乗せられ、その上に手を重ねるように言われる。これでステータスが見れるのかな?


「え、―――レベルが最大値?!」

「あ、はい。すみません。でも戦いたくないので護衛してくれる人が希望です!」


 しかも今この職業だけど、転職してもレベルはマックスだから。ホントなら私が護衛する側だと思うけど、痛みが無くとも実戦は怖すぎるからやりたくない。すみません、お姉さん。


「お客様のレベルだと、最初の契約を忘れて、一緒に戦闘して経験値を稼ぎたい冒険者が続出しそうですね…」

「……やっぱり?」


 二人同時にため息をつく。

 そりゃね、こんな高レベルな人間と冒険したら、多少は楽できるんでは?って思っちゃうよね。パワーレベリング、ってやつだ。


「それでもなんとか…お願いします!」


 受付嬢の手を取り懇願する。

 袖の下―――所謂『賄賂』といわれる(クッキー)を彼女の手に握らせて。


 こういう時は気持ちが大事なのよ、うん。


「―――コホン。まぁ、何件か当たっておきますが、高位冒険者ですので、時間がかかると思いますよ。過度の期待はしないで下さいね?」

「うんうん、りょーかいりょーかい!ありがと!」


 受付はさっきの黒い板に手を乗せた事で完了したらしい。

 紙に記入したりとか印を押すとか、面倒な作業がなくて楽チン。冒険者登録制度があってよかった。


 せっかく酒場に来たんで、この世界の食べ物を何か食べてみようかな。周りの人の食べてるのを見て小腹がすいてきた。

 いやぁ、さっきのチャーハンどこに行った、って感じよね。

 まぁ間違いなく私のお腹の中なんですけど。

 

 だってさー!

 異世界?料理だよ??

 いつも画面の向こうで見てたグラフィックが、今、湯気を立てて目の前にあるわけよ?これを食べずしてなんのスローライフだ。


 てなわけで。

 美味しそうな煮込みシチューとパン、あと鶏の焼いたやつを注文してみる。もう絶対美味しいよね! 

 期待値は高いけどこの見た目よ?

 マンモス肉じゃないけど、このビジュアルはたまらないわ。


 運ばれてきた煮込みシチューは湯気が立つほど温かい。

 添えられたパンはフランスパンみたいなのかな?

 スプーンで一匙掬い、ふぅふぅと息をかけて冷ます。

 あーもうよだれが出そう…いい匂い…いっただっきまーす!


「……?」


 パクリ。もぐもぐもく、ごくん。

 パクリ、もぐもぐもぐもぐもぐ………ごくん。

 ガブリ。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ、ごっくん。


 あれ、これ見た目詐欺ってやつ?


 

 どうやらこの世界の味覚と私の味覚は意見が合わないようだ。




元になってるゲームは有名なやつですが、細部(名称)とかちょこちょこ設定が違っています。全く一緒だと色々触ってしまうので。


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