新たな遺跡~エレディアーナ
ラウルたちが新たに表れた遺跡へ向かったのは翌日のことだった。あの後、食事を終えたラウルが疲労からくる睡魔に襲われ眠ってしまっていた。取られたらそこまでと割り切って、ゆっくりと支度を終えた一行は恐らく一番遅く遺跡に到着した冒険者たちであろう。
「出店がすごい数だ。大通りに遺跡があった以上か?」
グルネウスは声を発しながらラウルたちを呼び込もうとする店員たちの熱気に驚く。城へと続く道の左右に多くの店が作られており、様々な物を売られている。
「けど、ギルドに戻れば買える武器とかも売られていますけど、儲けあるんですか?」
「ありゃ遺跡から急いで出てきた奴ら用だな。遺跡で武器を無くしてギルドまで戻るのが手間に感じている奴らに売るんだよ。粗悪品が売られるなんてことは滅多にないから買う側もそこまっで疑わなくていいし」
「さすがテスさん。長年冒険者をやっているだけあってお詳しいですね」
「ド新人でも神具を手にするような世界だ。しぶとく生きてりゃこのくらいは詳しくなる」
「しかし、店が多いのは分かるが……」
パーラは少々声を小さくしながら周囲を見る。
「騎士団の人間が多いな。近衛の連中もいる」
「無理もないさパーラ。遺跡が出たのは城の中だ。元々帝国の密偵たちがいるなんて噂は聞くだろう?」
「確かに。帝国の内紛事情も稀に聞くしな」
「けっ、皇帝が寝込んでいる間に揉め事起こすなんざ王子たちも随分ガキだぜ」
「ダングール帝国って揉めているんですか? 内部で」
冒険に出る際に最低限の国名と首都の知識しか入れていないラウルからすると帝国の情報は新鮮だった」
「第一皇子と第二皇子で揉めてんだよあの国は。しかも第三皇子以降の奴らもどっちかの陣営に属しているって話だ」
「勢いは第一皇子側と聞いたことがある。なんでも武力を持って地方統一さらには大陸統一を目指しているらしい。ようは戦争がしたいんだろう」
「第二皇子は同じような考えだが、ギルドを取り込もうと考えているらしい。おそらく冒険者の戦力と神具所有者を味方に引き入れたいんだろう」
遺跡のある城内へ向かう最中に帝国の話を聞くラウル。ふと、思い出したことがある。
「昨日ギルドに来る前、エレディアーナ王女殿下が帝国の人間に襲われていましたけどなにか関係が? カララントの鎧を着てましたけど」
「んじゃ第一皇子側だろうな。王女がカララントの奴らに殺されたと思い込ませて戦争状態に入ったら横からウーティラスを襲撃するつもりだったんじゃないか?」
「誘拐だったら第二皇子だろう。奴は以前からエレディアーナ王女を妻にしたいと王国側に伝えているらしい。実際にやるとは思えんが」
次第に騎士たちが道を歩く者を監視するかように左右に一定の距離を保って立っていた。
「いい気分じゃねぇな。仕方ねぇと言え」
テスは不愉快と言わんばかりの表情で騎士たちを見る。
「仕方ないですって、遺跡に入って忘れましょう」
一行は騎士たちに見られながらも遺跡が現れた城内東側に到着した。冒険者たちは内部に入ったきりなのか周囲は騎士たちだけであった。
「こりゃまた変わった外見だな」
見つめる遺跡は水で形作られたものだった。水の中には魚まで泳いでいる。
「海の神ラズまたはその妻である水の女神キエイラ辺りか」
「外見だけであればそう受け取れるが……ラウル、君はどうだ? 昨日アンゼルの神具を手に入れた者としては」
「……外見だけで判断するならば、グルスさんが言った二柱が有力ですだと俺も思います。けど、魚が泳いでいる必要はありますかね?」
「はぁ、遺跡ってのは訳が分かんねぇ」
「それじゃ行きましょう」
意気揚々と遺跡へ入ろうとした四人は、
「あら、ラウル様?」
少女の声で入れなかった。
「ああ、エレディアーナ王女。昨日は馬車で送っていただきありがとうございます」
先ほどまで話題の一つになっていたエレディアーナがメイドのセリーナと見知った顔の騎士を連れて現れた。
「もう、エレンと呼んでくださいな」
「自分には恐れ多いことです」
というよりもエレディアーナの背後に立つセリーナの眼光が鋭かったためである。
「これから遺跡に?」
「はい。冒険者としては興味がありまして」
「羨ましいです。お父様は早急に遺跡が消滅することを願っているかもしれませんが、この眺めは素晴らしいですね。見たことのない魚が一杯! ずっと見ていたいです」
「あちらに席をご用意してあります」
「まぁ、ありがとうセリーナ。ラウル様、一区切りつけたら中の様子をお話しくださいませんか? 仲間の方々と一緒に紅茶でも飲みながら」
「はっ、しばらくした後に」
「お待ちしておりますね」
笑顔を見せた後、セリーナと共に特別に用意されたテーブルへと向かう。
「おい、ラウル。神具を手に入れたんだって? やるじゃんか」
こっそりと見知った顔の騎士であるエリクが声をかける。
「情報が早いな」
「そりゃ、あんだけ騒いでたらな。まぁ無事に帰ってこい。殿下を悲しませるなよ?」
「ああ、分かってる」
エリクと別れ、ラウルたちは今度こそ遺跡内部へと入る。大通りに存在した遺跡は地下へ向かうように階段が存在したが、今回の遺跡は上へと続いていた。
水で出来た階段を歩くという体験をしつつ、登り切った一行は空へと昇る水を見ることになった。
上からではなく、下から上に水が流れている。
「これは…………滝と呼んでもいいんですかね?」
「いや違うだろ絶対」
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