ミリア~競争
ラウルの初恋は母親のエルザだ。とはいえ、母親と恋ができるわけないと幼いながらも理化していたラウルは母が冒険者であったことで、次第に年上の女性冒険者に憧れのようなものを抱いた。
元々大陸各地を見て回りたいという夢と年上のお姉さんを嫁にしたいという気持ちが組み合わさり、ラウルは冒険者を志した。
なんともしょうもない話である。
余談であるが、ただ年上がいいというわけではなく、パーラのように落ち着きのある女性や母エルザのように豪快な人が好みである。
突然の違う発言の影響か、ミリアの纏う空気が重くなりつつある。手に持っていた神具も形を剣に変えていた。
だが、
「ミリアお嬢様ここでの揉め事は禁止されています」
現れた一人の女性によって刀傷沙汰は回避された。
「オーリナ。外で待っているんじゃなかったの?」
「お嬢様が何やら不機嫌になるのを感じましたので」
「察しがいいわね」
「恐縮です」
オーリナと呼ばれた女性も冒険者のようで装備している鎧はいたるところに傷がついている。
(………………いい)
自分が原因であるのにも関わらず、ラウルはオーリナを見つめる。
「ちょっと、オーリナを変な目で見ないでくれる。貴方なんか相手にされないわよ、素敵な夫がいるんだから」
「………………世の中理不尽ですね。テスさん」
「神具手にしたお前が言うか?」
「お嬢様、いかがされましたか」
「何でもないわモリス」
年上の男性がラウルたちの席に近づいてくる。オーリナの夫であることはすぐに分かった。
「それで、手に入れた神具を見せてくれるの?」
「あ、まだ続いてたのか。とはいえ派手なところはないさ」
ラウルの体が霧散した。
「え!?」
「こんな感じなことが可能なだけかな」
背後から声が聞こえたミリアは振り返ると、ラウルが料理を盛りつけた皿を手に立っていた。
「いつの間に…………なるほど幻覚の類かしら?」
「ま、そんなところかな」
「……なんだか馴れ馴れしいわね」
「いや、なんだか丁寧な言葉遣いをされるの嫌そうだったし」
「まぁ、そうね。モリスとオーリナもやめてほしいけどね」
「恐れ多いことです」
「お嬢様にそのような態度は取れません」
「はぁ……まっいいわ。ちょっとムカついたけど貴方とは競えそうね」
「競う?」
「ライバルが必要だからよ」
「????」
訳が分からないと首を傾げるラウルにミリアは余裕のある表情で言った。
「私はこれから多くの遺跡に挑戦するつもりよ、そして女冒険家の憧れであるエルザさんを超えるの!!」
「へー母さんを超えるか。頑張って」
「ええ、ありが――ん? 母さん?」
「神具を5つ手に入れたことで有名なエルザは俺の母だけど」
「そう、あなたがね。ふーん……エルザさんてこの国にいるの?」
「いや、ここから南西にある公国の国境に位置する村から来た。父さんと仲睦まじくしているかな」
椅子に座り直したラウルは食事を再開する。と思いきや、ミリアが皿を奪い取ってしまった。
「まだ、話は終わっていないわ」
「いや、食べながらじゃダメなの?」
「こっちを優先させなさい。それで、あなたはこれからどうするの? 他の国に行くの?」
「あー、今のところは考えてない。遺跡探索をしながら予定を考えようかなって」
「じゃあ、ダングール帝国にある遺跡で勝負しない?」
「……なぜ勝負?」
「競い合いたいの。見たところ同じような年齢でしょ?」
「……ああ、母さんが色々な冒険者とライバル関係だったっていう話か」
ラウルは容量を得ないミリアの話をようやく理解した。
エルザは最初の神具を手に入れた際、女の癖にと陰口を叩かれたことがあった。しかし、エルザは「その女に負けたアンタらは何なんだい?」と返したいう。
そこからエルザに舐められてたまるかという男たちのプライドが働き、当時遺跡攻略者が多数現れたという話だ。男が神具を取ればエルザも取る。と言われている。
「で、どうなの? 勝負してくれるの?」
「いや、自分のペースで冒険したいんだけど」
「むぅ」
不貞腐れるミリアの扱いに困ってモリスとオーリナを見る。
「お嬢様、ラウル様が困っております」
「冒険者は自由な職業です。どう動くかはラウル様の自由かと」
「…………そうね。そういう「失礼する!!」え?」
ギルドの入口にラウルは見覚えのある騎士の姿を見た。リグソンとアレクセイだ。
「突然の訪問申し訳ない。火急の知らせを持ってきた。冒険者諸君の出番だ」
その言葉を聞いた直後、ギルド内外で飲食をしていた冒険者たちが黙ってリグソンの言葉を待った。
「先ほどウーティラス王国の象徴であるヴァンスレクト城の東側に神具遺跡が現れた。今回場所が場所なだけに、長く遺跡が存在していると他国の密偵を招き入れる恐れがある。速やかな解決を願いたい」
リグソンの言葉が終わるや否や、大多数の冒険者たちは一斉にギルドを飛び出した。
「よし、ラウル。勝負しましょ」
「まだ言うか」
「ええ、今現れた遺跡に入ってどっちが先に神具を取るか。シンプルでしょ?」
「いや、やるとは言ってないけど?」
「私が勝ったら、貴方は私のパーティーに入ってもらうわ」
「おーい、聞いてる?」
「貴方が勝ったら私は部下になるわ。神具を見つけても貴方に譲る。どう?」
「全然人の話を聞かないな」
「なによ、いいじゃないこれくらい」
「お嬢様、ライバルが欲しいからって無理がありますよ」
少々呆れ気味のモリスに仕方がないという表情のオーリナがラウルの視界に入る。しかし、二人は言うだけで止めようとはしないあたりミリアの考えを優先させていると考えられる。
「はぁ、勝ち負けの条件なしで普通の勝負ってことなら」
「決まりね! 先に行かせてもらうわよ!!」
ミリアは笑顔で飛び出していった。
「ラウル様、改めてご挨拶を。ミリア様の執事を務めておりますモリスでございます。こちらは妻のオーリナ。メイドをしております」
「オーリナでございます」
二人は並んでラウルに頭を下げた。
「ミリア様の戯れにお付き合いいただきありがとうございます」
「最終的に了承したのはこちらなのでお気になさらずに」
「二人とも! 早く行くわよ!!」
「ラウル様、お礼は必ず」
「失礼します」
夫婦は素早い動きで去っていった。
「グルスさん、パーラさんそれにテスさん。一緒に遺跡に行きませんか?」
ギルドに残っていた数少ない冒険者の三人に声をかけた。
「構わないさ、グルネウスも張り切っているしな」
「こちらから願いたいところだったさ」
「お、おお。いいのか?」
「これもなにかの縁です。でも、その前に……」
ラウルはテーブルに並べられている料理を見て、
「まずは料理を片付けましょう」
そう言った。
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