パーティー~遺跡内部
ウーティラス王国の首都メルトトに神具遺跡が現れたのは今から七年前になる。
それまでは国の東存在する森林内部に一つだけ存在していた遺跡に挙って冒険者たちは向かっていったが、都市内部に遺跡が出来たことでギルドの寮から日帰り感覚で遺跡攻略をする者たちが増えてきた。
同時に冒険者が遺跡内で行方不明になることや死亡することも増えてしまっているが、それでも冒険者の人気が衰えることはない。神具が手に入らなくても内部に出現する獣。通称魔獣から採取できる素材は高値で取引されることが多く、最初からそれ目当ての者もいるからだ。
なお、人が減ったことで森林の遺跡にて神具を狙う者も一定数いる。
メルトトにある遺跡は王城側へと向かう大通りの真ん中に表れ、道を塞ぐ状態となっている。住宅地というわけでも無かったため生活が困ることはなかったが、城に仕える者や貴族たちの往来が不便となり、国が新たに道を作る必要があったのは余談である。
現在は遺跡へ向かう冒険者に商品を売ろうとする出店で賑わいを見せている。
「母さんが言っていたけど、すごいなぁ……今のうちに稼いでおこうって考えなのか」
「当たり前だ兄ちゃん。今稼がねぇでいつ稼ぐんだい?」
ラウルのつぶやきを聞いていたのか立派な髭を蓄えた小柄な男性が声をかけてきた。
「えっと、もしかしてドワーフの方ですか?」
「なんだい、俺たちを見るのは初めてかい?」
「ええ、故郷の村にはいなかったので話に聞いていた程度です」
人と違う特徴を持つ者たちがこの世界には存在する。火と生きる者、自然を愛する者、大地と生きる者、水に愛されし者そして金属を宿す者。
ここに人が加わることで、この世界では人間とされている。
「ほーん。なるほど、この国育ちじゃねえのかい」
「ええ、ここから少し離れた山の中に」
ドワーフは比較的小柄で、男性が成人しても140セルトほどで女性はさらに低い。
「ま、そんなこたぁいいや。兄ちゃんよ、こうしてあったのも何かの縁だ。なにか買っていかねぇかい?」
「なるほど、商魂逞しい方に捕まったか」
苦笑いを浮かべるラウルは並べてある商品を眺める。
「お、これは……魔水晶を入れておくホルダーですか?」
「お目が高いね。俺が作った一品さ、兄ちゃんは気力は高いほうみてぇだし、おすすめするぜ」
「気が付いていたんですか?」
「何十年も冒険者相手に商売してるんだぜ? 兄ちゃんの腰にある剣を布で覆っているのは無意識に気力が中身の剣に影響させないためだろ?」
気力。誰しもが持つ肉体の内側に宿る目に見えない力。これを意識し、物に流し込むように使うことで、魔水晶に宿る火や水を使うことが出来る。ただし、体質的に一定の物に意識せずとも気力の影響が及ぼすこともあり、場合によっては過剰に気力を流し込むことで起きる過剰流出により爆発事故などに発展してしまう。
ラウルが馬車での戦いで剣を使わなかったのはそういう理由もあった。
「ちょうど魔水晶もいくつかあるので買わせてもらいます」
「おう、毎度あり! ちょいとこれはおまけだ。持っていきな」
ドワーフの店主はホルダーと共に魔水晶を渡した。水晶の中ではバチバチと光が弾けていた。
「これは……雷の魔水晶ですか? 大変希少価値があると聞いたことがあるんですけど」
「なぁに、冒険者の兄ちゃんが持っていたほうがそいつも幸せさ、それに兄ちゃんは他の冒険者とはなんか違う気がすんだよなぁ、あくまで勘だけどよ。まっ、気にせず持っていきな!」
「ありがとうございます。代金です」
ラウルは代金を手渡し、ホルダーと魔水晶を装着。
「よく似合ってるぜ。頑張れよ! なんかあったらうちをよろしく頼むぜ!!」
「ええ、頑張ります!」
ラウルは店主と別れ、遺跡を見る。他の冒険者たちが次から次へと遺跡内部に入っていくのがわかる。
臆することなく遺跡の入口へと向かうと、その周囲を観察する。
「…………母さんから聞いていた話だと、どんな神の遺跡なのか入口の周りを見ればだいたい分かるっていうけど、難しいな」
「失礼」
「? はい、なんで――っ!?」
突然声を掛けられ振り向くと、そこには遺跡内に現れる魔獣を狩って整えたであろう鎧を身に纏う女性がいた。
「突然申し訳ない。今、君の独り言が聞こえてね。もしや母親は冒険者なのか?」
「え、ええ。母はエルザといいますが……」
「なんと! あのエルザ殿か、私は彼女に憧れて冒険者になったんだ。いや、まさかここでその子に会えるとは」
「えっと、ラウルといいます。貴女は?」
「失礼。パーラだ。冒険者をして三年になる」
自己紹介をして握手を交わす二人。ラウルの頬はやや高揚しているのか赤い。
「良ければ私が所属しているパーティーに来ないか? 神具は早いもの勝ちだが、攻略自体は楽になるはずだ」
「是非!! と言いたいところですけど、いいんですか? ド新人なんかを入れて?」
「構わない。ここの遺跡内部を見れば理解すると思うが、少しでも仲間は欲しい」
「なるほど、じゃあお願いします!」
「決まりだな。こっちに他の連中がいるんだ。顔合わせしておこう」
「…………よし、幸先いいぞ、けっこう理想的だ」
「どうした?」
「いえ、なんでも!!」
パーラに案内された場所は遺跡の目の前にある円形の広場え、その中央にある建国王の銅像がデカデカと建てられているその足元付近に軽装から重装備の様々な冒険者たちが集まっていた。
「すまん待たせたか」
「いや、気にするなパーラ」
「グルネウス、このラウルという者、母君があのエルザ殿だそうだ」
「ほう、それはすごいな」
「ラウルです」
「グルネウスだ。呼びにくいと思ったら、グルスとでも呼んでくれ」
二人は握手を交わす。
「まぁ、エルザの息子だと言われて委縮せずに自分の出来る力を発揮してくれ」
「ええ、頑張ります」
その後他のパーティーの者たちとも挨拶をするラウル。しかし、新人を入れて十数人もいると挨拶するだけで一苦労してしまう。
「もうパーティーと呼ぶには難しい人数では?」
「はは、確かにな。でも、みんなあくまでも神具を取るまでの関係みたいなものさ、どう出し抜こうか考えている奴だっているだろうしな。さて、俺たちも遺跡に行こう」
グルネウスを先頭にラウルたちは遺跡へと向かう。
遺跡内部は入口からすぐに下層へと向かう階段が一つだけある。明かりは遺跡に最初から備え付けられていた松明が照らしている。グルネウス曰く、最初に入った時から松明は燃え続けていたという。
しばらく階段を下ると光が見える。出口からラウルが見たのは、大自然に囲まれた場所だった。
「これが……摩訶不思議な神具遺跡内部……」
ラウルを始めとする新人たちは驚愕の表情をしており、すでに懐かしいと笑みを零すパーラを含む冒険者たちは過去の自分たちを思い起こしていた。
「私も初めてここに来たときは驚いたものさ」
パーラの言葉を聞き流しながら、ラウルは周囲を見る。見たこともないような巨木。雲に頂上が隠れてしまっている山。圧倒的な水量を放出している大滝。
先ほどラウルたちが下りた遺跡との出入口は岩山の一部であることに気が付くと、ラウルは驚愕の表情をする。どうして岩山の中に出入口があるのか分からないからだ。
新人たちが呆けた表情をするなか、グルネウスが手を叩き注目を集める。
「ようこそ新人諸君。ここが首都メルトトに生み出された神具遺跡、通称ワイルドゾーンだ。さぁ冒険の始まりだ」
その言葉にラウルは笑みを浮かべるのだった。
セルト=センチメートルの意味となります。
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