ギルド~始まりの一歩
ウーティラス王国南門に到着した一行は詰め所にいた兵士たちにラウルの事情を説明、アレクセイの神具を使用しているとのことで簡単に通り抜けることができた。
「では、ラウル様。後日またお礼をさせてくださいね」
「これ以上は欲張れませんよ王女殿下。馬車に乗せていただいただけで十分です」
「いいえ、絶対にお礼をさせていただきます! それでは」
「じゃあなラウル。冒険者ギルドはこの大通りを行った先にある。大きな看板があるからすぐにわかるぜ」
「エリクさん、ありがとうございます」
「呼び捨てで構わねねぇよ。そんなに年齢も離れてねぇし」
「そうか、エリク色々教えてくれてありがとう」
「おう、また会おうや!」
王女の一団が城へ向かうの見届けたかったが、王族の馬車から降りてきたラウルを周囲の人たちはジロジロと見てくるため、居心地の悪さを感じたラウルは冒険者ギルドの方へと向かう。
エリクの言う通り冒険者ギルドの看板はすぐに分かった。
〈冒険者ギルド ウーティラス支部〉
デカデカと掲げられた建物は賑わっているのか、扉は完全に開放されている。多くの人たちが出入りを繰り返しており、中からは笑い声も聞こえる。どうやら酒場も併設されているらしい。
「おお……デカい。これが冒険者ギルド」
酒場や宿としての施設を含むため、基本的には各国の城以外には大きさで負けないとまで言われ、ラウルのいる周辺の建物よりも圧倒的な存在感がある。
「よし、行くか」
ラウルは冒険者ギルドへと入っていく。
当然といえば当然で、ラウル以外にも冒険者として登録する若者は多い。受付の女性が数人で対処していても数十人並ぶ状態が続くほどだ。新規登録者窓口にラウルが並んでから数十分後、ようやくラウルの番となった。
「ようこそ新人さん。ウーティラス支部へ」
「登録をお願いします」
「お名前を伺っても?」
「ラウルといいます」
「はい。ではどちらかの腕にギルド公認の印をつけさせてくださいね」
ラウルは左腕を差し出すと、受付の女性は魔水晶を取り出し、それをラウルの左腕に当てる。すると、水晶内に刻まれていた文字が腕に描かれ、そして溶けるように消えた。
「はい、これで登録は完了です。これでギルド公認冒険者として活動できます」
「結構簡単ですね。それに今の魔水晶は人工ですか?」
「はい。ギルド総本部に熟練の技術者がいまして簡単に登録した冒険者かどうかを調べることができるんです。印の魔水晶で文字を刻んで、光の魔水晶をかざすと隠れた文字が見えるんです」
「へえ、すごいな」
「ラウルさんはこの国出身ですか?」
「いえ、南西の村か来ました」
「じゃあ、冒険者の寮に部屋を取りますね。ここにお名前をお願いします」
受付嬢から紙を渡されたラウルは自分の名前を記入する。
「ありがとうございます。少々お待ちくださいね」
紙を受け取り、受付の奥へと持っていく。しばらく待つと、鍵を持って戻ってきた。
「ではこちらが寮の鍵となります。お出かけになる際は受付に戻してくださいね。ああ、一年鍵を預けたままですと、死亡扱いとなりますのでしっかり戻ってきてくださいね」
「物騒ですね」
「冒険者は死と隣合わせですし、最初にこれくらいは言っておかないと。ああ、簡単な講習もやっていますので良ければどうぞ。まあ、すぐにでも遺跡に行きたいでしょうけど」
「講習ですか、ちょっと行ってみます」
「はい。では、良き冒険者ライフを」
登録を終えたラウルは講習を行うという部屋を教えてもらい向かう。入口に新人冒険者講習と書かれた講義室の扉を見つけ、中に入るとラウル同様に新人であろう若者が着席していた。
受付を待っていた行列を考えると半分以下ではあるがそれでも多くの若者が部屋の中にはいた。
(男だらけだな……)
ラウルがざっと見た限り自身と同じ年齢の男ばかりで女性の姿は見られない。
(母さんがきっかけを作ったっていうけど、まだまだ男の職業なのかね)
後ろの席に座っているとギルドの職員と思わしき四十代の男性が現れた。
「新人諸君ようこそ冒険者ギルドへ。これから簡単な講義をしたいと思う。なに、すぐに終わるよ」
男性が話したのは、初めにギルドは冒険者の死に責任を負わないということ。遺跡内で命を落とそうが寮で命を落とそうが関係無いとのことだ。
「我々が行うのは持ってきてくれた素材を換金したり、食事や部屋、武器や遺跡内部の情報を提供するくらいだ。自分の体調管理や実力不足をこちらの原因にしないでくれ。ああ、恨みなどで命を狙われても自分の身は自分で守ってくれ」
新人たちは緊張しているのか、冷や汗を流す者もいた。
「次に、当たり前のことではあるが、神具は最初に手に入れた者のものだ。好きにしてくれて構わない。果樹園のマークの話を知っているかな? 彼のようなことはしないようにしてくれ、勿論されないよう努力もな」
果樹園のマークとはよく幼い子供に聞かせる昔ばなしだ。
数百年前の話でマークの父親は当時の冒険者で、神具を遺跡から手に入れた。力としては実りの女神アーフェルソーンの力を宿していたといわれる杖で、木を叩くと果物を作ることが出来るという代物だった。
当初こそ大した力じゃないと周囲から笑われたが、出来上がった果物は驚くほど美味しいと話題になった。マークの父親はこれに目をつけ、冒険者を引退して果樹園を行うことに。その際に交際していた女性と結婚マークが生まれた。
その美味なる果物に貴族から重宝され、驚くほどの高値で取引が行われたといわれる。
成功者となったのだが、息子のマークは生まれてから金のある生活を送ってきたため金遣いがとてつもなく荒く、毎日のように散財していた。
マークはいずれ父から杖を譲り受けられると信じていたが、父親はマークに譲る気はないと突っぱねた。これにマークが怒り、父親を殺害してしまう。
そのまま杖を奪うつもりだったが、杖は所有者を失いどこかへ消えてしまった。マークは父親殺害の罪で投獄。残された母親はマークが起こしてきたトラブルに慰謝料を支払い、残された僅かばかりの金と共に姿を消し、マークは獄中で命を落としたという話だ。
この話は歴史的に重要な部分として最初に触れた者が命を落とすと神具はどこかへ消えてしまうということが初めて分かった事例であるということだ。
この杖はこの事件からおよそ五十年後に再び神具遺跡が発見され、新たな所有者を見つけている。
「さきほど遺跡内部の情報提供と言ったが、これは新しい情報があれば君たちが我々に提要してもらいたい。もちろん少ないが謝礼もする。それをまだ知らない冒険者に提供させてもらう」
男性は新人たちの顔を見渡す。
「次にもし他の誰かが神具を手にしていた時に遺跡にいた場合だが、分かっている情報だと、遺跡は消滅し、中にいた者は外に移動している。遺跡と仲良く消滅。などということはないから安心してくれたまえ」
笑みを見せ、顔を強張らせていた新人冒険者たちを安心させる。
「さて、あまり長話をしても致し方あるまい。最後に、遺跡の難易度にもよるが奥へ進めば進むほど新人は命を落としやすくなるまずは焦らず自力を高めることに専念してもらいたい。幸いこの首都にある遺跡はまだ神具を手にしたものがいない。身近にある遺跡でまずは経験をしっかり積んでくれ。では解散!」
男性の最後の言葉を聞いた数人の新人たちが講義場から飛び出すように走り去った。
「はっはっはっ、元気のいい者たちだ。さ、君たちも好きに行動してくれたまえ」
座ったままの残りの者たちもゆっくりであるが、講義場を後にする。ラウルも同様に講義場を後にし、寮の自室に荷物を置いた後、受付に鍵を預ける。対応してくれたのは、登録時に対応した女性だった。
「じゃ、冒険に行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい。無事に戻ってきてくださいね」
「はい」
ラウルの冒険者としての一派が始まった。
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