姫様、労働する
翌日、朝からアナスタシアとグレンは昨日燃やした箇所の修復をしていた。アナスタシアはゲンナリしているが、グレンはこういう作業が嫌いではないのかテキパキと小屋を作っていく。カンカンと金槌の音が響く中庭をエマが自分の部屋から眺めていた。
(変な人達……。)
悪い人達ではないのであろうが、エマはどう接していいかわからなかった。今日は午後から家庭教師がやってくる。それまでは自由に過ごしていいのだが、先日の事もありでかける気にはならなかった。
「ふぅ……ピアノでも弾こうかな。」
自室にあるピアノの前に座ると、コンコンとドアがノックされた。
「エマさ~ん!いますか~?」
どうやらプリシアと名乗っていた女性らしい。この人は何故か私に話しかけてきたりする。嫌いではないがどうしたらいいのかわからない。とは言え無視するわけにもいくまい。椅子から立ち上がりドアを開ける。
「……何かご用ですか?」
恐る々々尋ねると、プリシアが小さな籠とティーセットを見せる。
「……?」
エマが籠の中を覗くとクッキーが入っていた。
「ふふふ。朝から厨房お借りして作ってみたんです。よかったら一緒に食べませんか?」
「??」
わけがわからない。何故この人は私とクッキーを食べようと思ったのか。一人で、もしくは仲間達と食べればいいではないか。エマの様子を見たプリシアが不安気に言う。
「もしかして……クッキー嫌いでしたか?」
少し躊躇いながらエマは首を横に振る。嘘をつく理由もない。
「よかった~!じゃあ一緒に食べましょう!結構自信作なんです!」
プリシアがエッヘンと胸を張る。
「どこで食べましょうか?天気が良いし中庭にしますか?それかエマさんか私の部屋にしますか?」
「え?え?」
戸惑うエマを余所にプリシアは話続ける。
「あっ!ピアノだっ!エマさんピアノ弾けるんですか!」
「え?あ……う、うん。」
「ふぁ~凄いなぁ~!」
プリシアがキラキラした目でエマを見る。
「そ、そんなの凄くない……。」
「凄いですよ~。私まったく弾けませんもん。」
「ずっと……習ってるから……。」
エマの頬が紅く染まる。
「エマさん!聴かせてもらえませんか?」
プリシアがエマと目線を合わせて懇願する。
「えっ!で、でも……。」
渋るエマにプリシアが詰め寄る。
「お願い!お願いしますっ!」
手を合わせて頼むプリシアに困り果てるエマ。この人は本当に大人にのか?子供の私に何故こんなに頼むのか。
「ダメ……ですか?」
「うっ……。」
悲しそうな顔をするプリシアにエマが折れる。
「わ、わかった……。どうぞ。」
「ホントですか!ありがとうございます!」
エマの手をとり喜ぶプリシア。
「い、いいから。入って……。」
「はい!」
※※※※※
「ふ~。少し休憩するか!」
グレンが首にかけたタオルで汗を拭きながら言う。昨日全焼させた小屋の代わりに作っている小屋は3分の1程出来上がっていた。
「ほ~、なかなかいいじゃねーか。」
使用人の老人が誉める。
「盛大に燃やしやがった時は殺してやろうと思ったが、こりゃ前のより立派なのができるかもな。なぁ、放火魔の嬢ちゃん。」
「うっ……!」
少し離れた場所でせっせと花壇を修復しているアナスタシアが嫌そうな顔をする。
「まあまあ、兎に角少し休もうぜ。」
三人は木陰に座り水で喉を潤して休んでいると、ピアノの音色が聴こえてきた。
「ん?なんだ?」
「ピアノだね。」
「ああ、こりゃお嬢様だ。」
目を閉じピアノの旋律に耳を傾けながら暫しの休息をとる三人であった。
御一読頂き誠にありがとうございました。
良かったらブックマークやコメント宜しくお願いいたします。