姫様、焦る
アナスタシアが蹴り飛ばされた剣を拾いに行く。
「チェッ……結局一本取れずか~。」
唇を尖らせて拗ねたように言うアナスタシア。
「いや、悪くはなかったぜ。特に最後の一撃はギリギリだった。」
「そーかなー。」
なかなかアナスタシアのご機嫌は治らない。
「まあそう拗ねるなって。日々精進だ。」
「それはそうだけど……。」
「それに色々分かった事もある。」
「分かった事?」
「ああ、これから共闘するにあたって動きの癖や型を知りたかったんだ。」
「ほぉぇ~。ちゃんと考えてるんだね。」
「当たり前だ。それにお前の弱点とか。」
「私の弱て…………どぅあぁーーー!!」
突如アナスタシアが叫んだ。
「わっ!な、なんだよ!?どうした?」
「ひっ!ひっ!ひっ!」
グレンの背後を指差しながら奇声をあげている。
「はぁ?ひ?」
「ひっ!火がっ!も、燃えてる!」
「燃えてるって何が?」
グレンが振り返ると背後にある園芸道具が仕舞ってある小屋が燃えていた。
「ぐわぁーー!」
グレンが絶叫する。
「も、燃えてるー!!」
「火事っ!火事だっー!!」
二人は右往左往しながら叫ぶ。
「み、水っ!水っ!」
「そうだっ!お前の魔術で水をっ!」
グレンが名案とばかりに言う。
「まだ火しか出せない~!」
「だぁー!」
グレンが周囲を見渡すと屋敷の壁面沿いにバケツが置いてあった。
「あれだっ!」
グレンが急いでバケツを手に取り噴水に走っていく。
「グレンっ!」
アナスタシアが期待に満ちた目で応援する。グレンが噴水の水を汲み燃え盛る小屋にかける。
「…………。」
焼け小屋に水だった。
「ど、ど、どうしよう……。」
アナスタシアが頭を抱える。その間にも炎は辺りに燃え広がっていく。
「そうだっ!爺さんなら!」
「それだっ!ジイーっ!ジイーっ!」
アナスタシアが屋敷に向かって叫ぶ。するとヴォルフの部屋の窓が開いた。
「どうされましたか……なっーー!!」
中庭の惨状に驚くヴォルフ。
「ジイっ!魔術で水をっ!」
「か、かしこまりました!」
ヴォルフが傍らに立て掛けてあった杖を手に取る。杖の先が光り、燃える小屋の上から滝のように水が流れ落ちる。
※※※※※
幸い怪我人は出なかったが小屋は全焼し、中にあった用具も燃えてしまった。小屋の近くにあった花壇や植木も悉く燃え尽きた。アナスタシアとグレンがルードに謝罪に行くと、顔をひきつりながらも笑って許してくれた。しかし、中庭を管理している使用人の老人の元に行くと、怒りで我を忘れた老人に鎌を振り回しながら追い回された。二人はひたすら謝り、明日から燃やした箇所の修復を条件になんとか許してもらった。
「全くえらい目にあったぜ。」
「危うく鎌でバラバラにされるとこだった。」
アナスタシアとグレンはゲッソリして夕食の席についていた。
「まあ、火事を起こしたんですから仕方ありませんな。」
「お二人に怪我がなくてよかったです。」
今晩はロイドが会食と言うことで夕食の席にはアナスタシア達四人とエマだけだった。アミークラはいつも自室で食事をとるらしい。
「もう一生分くらい叱られたよ……。」
怒り狂う使用人を思いだし身震いするアナスタシア。珍しく小さくなっている。
「明日は朝から花壇の修復だとよ。」
「まさか花を育てることになるとは。」
「まあ!素敵ですね!」
そんなやりとりをしている四人をじっと見つめるエマ。視線に気づいたプリシアが話しかける。
「エマさんはお花好きですか?」
「……!?」
エマが慌ててそっぽを向く。
「ご、ごちそう様!」
席を立ち食堂を出ていくエマ。
「あっ…………。」
プリシアは少し寂しそうな表情をした。
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