Interlude
プリシアが自室でヴォルフから借りた魔術の本を読んでいると、開けていた窓の窓枠に小鳥が止まった。プリシアは小鳥に気づくと、籠に入れてあるクッキーを一つ手に取り砕く。それを掌に乗せ、ゆっくり小鳥に差し出す。小鳥は首を何度も傾げて警戒している。根気強く待っていると小鳥が嘴でつつくように砕かれたクッキーを食べた。
「ふふふ……いっぱいありますから遠慮なくどうぞ。」
プリシアが嬉しそうに小鳥に語りかけていると、視界の端に動く人影が映る。
「ん?」
プリシアは視線を下に向ける。すると二つの人影、アナスタシアとグレンが闘っているのが見えた。
(……!?)
プリシアがあまりの衝撃に固まり、小鳥も驚いて飛び去ってしまった。
(け、喧嘩してるー!!)
プリシアは二人を止めるべく慌てて部屋を飛び出す。廊下を出た所でヴォルフとばったり出くわす。ヴォルフは数冊の本を抱えていた。
「たたた、大変です!姫様とグレンさんが中庭で喧嘩しちゃってましゅ!」
ちょっと噛んだ。
「喧嘩?あー……あれは手合わせしとるんじゃよ。ほっといて大丈夫じゃ。」
「て、手合わせ?」
「ふむ、まあお互い相手がいた方が捗るんじゃろうて。」
「な~んだ~。」
プリシアがへたりこむ。
「私すっかり二人が喧嘩してるのかと。姫様なんて剣振り回してるし。」
「まあ、そういう事じゃから安心せい。」
「はい、ホッとしました。」
プリシアが立ち上がる。
「ところでヴォルフ様、その本は?」
「これか?これは書庫にあった本じゃ。ルード殿に訊いてみたら書斎も自由に使って良いと言うておったのでな。」
「へー。私も行ってみようかな。」
「ふむ、それがよい。あの二人は肉体派じゃが儂らは頭脳派だからの!」
「もーヴォルフ様。そんな言い方、姫様に怒られますよ。」
高笑いするヴォルフをプリシアが嗜める。
「あら?お二人ともどうなされたのかしら?」
ヴォルフの後方から声がかけられる。
「あっ!えっと……アミークラさん!どうも……。」
プリシアがちょこんと頭を下げ、ヴォルフも振り返る。
「す、すみません騒がしくしてしまって。」
「ふふ、構いませんよ。プリシアさん……でしたかしら?」
「はい、そうです。」
アミークラが二人の方に歩いてくる。
「アミークラ殿、今日はロイド殿についていかなかったのですな。」
「えぇ、秘書とはいえ常に一緒にいるわけではありませんわ。今日は屋敷で仕事です。」
「なるほどのう。お忙しいようですな。」
「それよりヴォルフさんは魔術師でしたわね。いつか語り明かしたいわ。」
「フォフォフォ。美人の申し出を断るほど不粋ではないが、儂の如きに話せる事などあるかどうか。」
「ふふ、随分と謙虚でいらっしゃるのね。でも、私も魔術師の端くれ。分かりますの、ヴォルフさんはかなりの腕をもっていらっしゃるわ。」
「そんなに煽てんでくだされ。木に登ってしまいます。」
そんな言葉を交わしてアミークラは
「それでは失礼します。」
と言って三階奥の政務資料を納めている部屋へと歩いていった。
「アミークラさん、お忙しい方なんですね。」
「…………。」
ヴォルフはアミークラが歩いていった方をじっと見ている。
「ヴォルフ様?」
「……ん?ああ、そうじゃな。さて、儂はまた部屋で本でも読んでおるかの。」
「じゃあ私も書庫に行ってみますね。」
プリシアが一礼して階段を下りていく。
「………。」
ヴォルフは再びアミークラの歩いていった方を見てから自室に入った。
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