姫様の力量
(……ん?)
窓辺で本を読んでいたヴォルフがふと目線を外に向けると、アナスタシアとグレンがいた。何をしているのかと眺めていると、二人は距離をとり構えた。
「ほぅ……これはこれは。」
ヴォルフは本をテーブルに置くと、ティーカップを手に取り紅茶を飲みながら二人の手合わせを観劇する。アナスタシアが一足飛びにグレンに斬りかかると、グレンはその場で身体を反らすだけでかわす。続け様に連続で斬撃を繰り出すがヒラヒラと紙一重でかわされてしまう。
(ふむ……流石と言うべきか、グレンと姫様の間にはかなり差があるみたいじゃの。)
個人の力量差は勿論、経験の差も大きい。
(グレンは姫様の動きの十手先程が見えておるか……。さて、姫様はどうするか。)
ヴォルフはクッキーを齧りながら観賞するのであった。
※※※※※
「くっ……!」
またも斬撃をかわされアナスタシアが悔しそうに唸る。グレンは素早いうえに柔軟だ。単発的な攻撃では捉えられない。動きを予測して連撃で攻めなくては当たらない。だが今はそれよりも、
「なんで反撃してこない!私を愚弄するのか!」
怒りの混じったアナスタシアの問いにグレンが答える。
「反撃の必要がないと判断したからだ。このまま避け続ければお前は自滅する……だろ?」
「自滅……。」
悔しいがグレンの言うとおりだ。元々の体力に差はあるだろうが、それを抜きにしてもアナスタシアの運動量の方が多い。
(つまり……無駄な動きが多いってことか。)
息を整えつつ思考する。
(なるべく最小の動きで仕留めるには…………グレンの動きを予測しろって事か。………むずっ!)
自分の出した結論にゲンナリするがやるしかない。先程までのグレンの動きを思いだす。癖や型はなかったか?思考を巡らせる。
「よし、いくぞ。」
「おうっ!」
アナスタシアが剣を上に振りかぶりグレンに振り下ろす。
(さぁ二択は……右っ!)
すかさず身体を右に捻り凪払う。
「うぉっと!」
グレンが大きく後ろに跳び退いた。
「はぁはぁはぁ……初めて逃げたな。」
グレンは先程から正面からの攻撃に対して左右の視界の死角に踏みこんで来ていた。その結果グレンを見失い攻撃が後手に回っていた。
「ふっ、急に動きが良くなったな。」
実際は左右二択を偶々当てただけなのだが。
「じゃあ望み通りにこちらからも攻めるぜ。」
そう言うとグレンが突進してくる。
(さっきより早いっ!)
アナスタシアが横に凪ぐとグレンの姿が消えた。
(っ!?……下かっ!)
剣を振り下ろすが石畳に刺さる。
「残念、上だ。」
声がして上を見ると同時に左肩のショルダーガードにグレンの踵落としが直撃する。
「うぐっ!?」
ドシンッと重たい衝撃が左肩に伝わり剣を落としそうになるのを右手でなんとか堪える。グレンは着地と同時に後方に跳ね間合いをとる。今の隙に連撃してこなかったのはまだまだ手加減されている証拠だろう。
「つっ……まだまだっ!」
アナスタシアが剣を構えた。
「そうこなくっちゃな。」
グレンがニヤリと笑った。
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