姫様と護衛生活
翌日、四人は朝から宿に荷物を取りに行き再びベルナール邸へと戻った。ロイドは昨日の件で朝から憲兵に事情を説明するために出かけている。
「ルードさん、今日は私達どうしたらいいですか?」
「皆様には基本的にお嬢様の予定に合わせて頂く事になります。館にいる間はご自由にお過ごし頂いて構いません。」
「うーん。じゃあとりあえず紹介してもらおうか。」
「かしこまりました。ご案内致します。」
ルードに案内されエマの部屋へと向かう四人。ルードがドアをノックする。
「お嬢様、ルードでございます。お嬢様の護衛をして頂く皆様をお連れしました。」
しばらくの沈黙の後、ドアが開いた。
「……どうぞ。」
警戒心からかエマの言葉は固い。
「失礼しま~す。」
プリシアを先頭に部屋に入る。広い部屋の中心には天蓋とカーテンのついた豪華なベッドがあり、ピアノ、本棚、机と椅子、そしてたくさんの人形やぬいぐるみがあった。
「こんにちは、エマさん。今日からしばらくよろしくお願いしますね。」
プリシアがエマに目線を合わせ笑顔で言う。
「……よろしく。」
続いてアナスタシア達も挨拶するがエマの反応はそっけない。
「お嬢様、外出の際はこちらの方々が付き添う事になりますのでご承知おきください。」
「……わかったわ。」
顔合わせが済むと一同はエマの部屋を出る。
「私達……嫌われてる?」
アナスタシア言葉にルードが答える。
「いえ、お嬢様はいつも……。」
「まあ、難しい年頃ですしな。」
「うーん、せっかくなら仲良くなりたいです。」
とりあえず今日はエマの外出予定がないとの事なのでアナスタシア達も屋敷で過ごす事にする。四人で相談した結果、基本的にエマの側で護衛するのはアナスタシアかプリシアで有事の際にはヴォルフとグレンも対応すると言うことになった。
「じゃあお言葉に甘えて好きに過ごさせてもらおうか。ルードさん、中庭借りてもいい?」
「はい、どうぞ。玄関を出て右側から回り込めば中庭にでれます。」
「ありがとう。じゃあ私は外で剣の鍛錬してくるよ。」
「ふむ、では儂は自室におりますかな。何かあれば呼んでくだされ。」
一同は解散し各々に時間を過ごす事にする。アナスタシアは自室から剣を持ち出し中庭へと向かった。噴水を囲うように花壇が放射状に広がっており、今は使用人が花壇に水をやっていた。アナスタシアが屋敷を見上げると自分達の部屋に面していた。丁度アナスタシアとプリシアの部屋の上がエマの部屋だ。アナスタシアが剣を構え素振りを始めると、花壇に水をやっていた使用人がギョッとして視線を向けたがしばらくするとまた自分の仕事に戻った。
「……ふっ!……ふっ!……ふっ!」
当たらない剣を手に馴染ませるように無心で剣を構えて振る。一振一振りを丁寧に、しかし素早く、反復する。集中するにつれてアナスタシアは意識の深い場所に潜っていく。意識が研ぎ澄まされ周りの音や気配が鋭敏に感じられる。まだまだ短い時間しか続かないが、鍛錬を積めばより長くこの状態でいられるだろう。
「なんだあの娘……剣を振るからくり人形か?」
離れた所で見ていた使用人が呟いた。
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