姫様、頼まれる
「ご存知の通り我が国では評議会の議長選を控えています。立候補者は二人。一人は私、ロイド=ベルナールです。そしてもう一人が、アラミス=ウィルビーという男です。」
「そのアラミスという人がお嬢さんを?」
アナスタシアが尋ねるとロイドは頷く。
「おそらく。証拠はありませんし、残さないでしょう。彼は数名の裏家業の連中を雇ったとの話もありました。」
「しかしよぉ、いくら選挙の為とはいえ誘拐や殺しまでやるか?」
「グレンさん、評議会の議長となればこの国のトップです。いかなる手段を使ってもその席に座りたいと思ってもなんら不思議はありませんよ。」
「へ~、アンタもか?」
グレンの問いかけにロイドが眉を寄せ言葉に詰まる。慌ててルードが間に入る。
「グレン様、旦那様は……!」
「いや、ルードいいんだ。グレンさん、確かに私も議長にはなりたいしその為に様々な事をしました。しかし、人の道に反する事はしていません。」
「じゃあエマさんを拐って議長になるのを諦めさせようと……。」
プリシアが尋ねるとロイドは深く頷く。
「実は議長選が始まってからアラミスは私に近しかった他の議員に色々と圧力をかけていたんです。私に投票してくれるであろう議員がどんどん離れていったり。」
「それで、私達に頼みとは?」
アナスタシアがグレンを見る。
「はい、皆さんには私の娘、エマの護衛をしていただきたいのです。」
「護衛……ですか?」
「はい、勿論ずっとでなくて構いません。議長選が終わるまでです。」
「つまり、そのアラミスって奴が刺客を放ってくるからそいつらから守って欲しいと?」
「はい。その通りです。」
「でも……私達、通りすがりですよ?そんな重大な事を……。」
「皆さんが通りすがりだからですよ。それにこの国の人間ではない。」
「??」
「この国の人間では既にアラミスの息がかかっていないとも限りません。それに議長選に利害もないでしょう。」
「確かに……筋は通ってるか。」
「部屋を用意しますので、皆さんには住み込みで娘を守って頂きたいのです。」
「うーん。それを言われると……。」
正直、選挙うんぬんの話はアナスタシアには興味なかった。そういう政治の暗い部分は少なからず知ってはいる。しかし、その政争の具としてあの小さな娘が利用され、危険に晒されるのはやはり可哀想だしなんとかしてやりたいとは思う。
「わかりました、先程も言ったように私達にはもう一人仲間がいます。彼が来てから相談させてもらえますか?」
「わかりました、それで構いません。」
ロイドとルードは一旦席を外し、一同はヴォルフの到着を待つことにした。
「また妙な事になったな。」
「エマさん……可哀想ですね。」
「とりあえずジイに相談かな。この手の話しは難しそうだし。」
三人はまだ来ないヴォルフの到着を待つのであった。
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