Interlude
魔物の鋭い爪を盾で防ぎながら、徐々に回りを囲い距離を詰めていく討伐隊。
魔物も初めて力任せでは狩れない獲物に出会ったのか苛立たしげに吠える。
両手を振り回し、盾を構える前方の兵士を弾き飛ばすと、後ろに大きく跳躍する。
「射て!!」
オライオンの掛け声で弓兵が一斉に矢を放つ。
空中で回避出来ない魔物は一斉射撃の的になり、腕や脚に矢が刺さる。
痛みのせいか、着地に失敗し倒れこむ魔物。
その隙にオライオン達前衛が魔物を包囲しながら斬りかかる。
脚の傷が深いのかその場から移動せずに向かってくる兵士をただ力任せに腕を振り回し追い払おうとする魔物。
「ぐあっ!」
「しまっ……!」
手負いの獣の激しい抵抗に盾を弾きとばされ、その身に魔物の攻撃を受けてしまう兵士。
鎧がなければ致命傷になっていただろう一撃を受けて二名の兵士が踞る。
「お前達は一旦下がれ!」
「「は…はい!」」
オライオンの指示に一度戦線離脱する二名の兵士。
オライオンは残りの兵士とともに畳み掛ける。
闇雲に腕を振り回す魔物に対し冷静に距離を取り、魔物の大振りの攻撃の隙をついて腕に渾身の一撃を振り下ろす。
「うりゃぁぁぁ!!」
気合いとともに振り下ろされた剣は魔物の腕に深く刺さる。
「ぎゃぁぁ!!」
魔物の咆哮を間近で聞きオライオンの鼓膜が激しく震える。
「ぬっ!硬い!?」
腕を斬り落とせなかったことに一瞬驚くがすぐさま距離をとり弓兵に矢を射らせる。
針山の如く矢が刺さり動きが鈍くなった魔物にオライオンがその首を狙い剣を一閃する。ザクッと剣が食い込む感触と同時に、
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
魔物の断末魔が響き渡る。首こそ斬り落とせなかったが手応えはあった。
オライオンが剣を離すと魔物の首から鮮血が吹き出る。倒れ伏す魔物はまだ僅かに動いている。
「ぐるるる……」
苦しそうに唸る魔物を見下ろすオライオンがゆっくりと近づいていく。
「すまんな、せめて楽に……」
そう呟くと、グサッと喉元に剣を突き刺す。
「がっ……がっ……。」
魔物は最後のうめき声を上げた後、もう動かなくなった。
「隊長!やりましたね!」
「はぁはぁ……終わりましたね。」
オライオンに駆け寄り勝利を喜ぶ兵士達。
「怪我をした者は?」
「はっ!魔物が振り回した腕の直撃を受けた二名は重傷です。おそらく肋骨が折れているかと。しかし、命に別状はありません!残りは魔物の爪による裂傷を受けた者がいるだけで、こちらも命に別状はありません!」
被害状況を確認したオライオンが勝利を報せる笛を吹くように指示すると、一人の兵士が笛を取り出し村中に聴こえるように思いっきり吹く。
笛の音を聞いたであろう民家からパッと灯りがつき、深夜ながら村内が僅かに明るくなる。
「隊長、やりましたね。」
「我らにかかればこんなもんですよ!」
「ふ~早く風呂入って休みたいぜ。」
軽傷だった兵士達が勝利の余韻に浸りながら、魔物の側に立つオライオンの方にやってくる。
「みんな、良くやってくれた。」
皆を労うオライオン。
兵士達がもの珍しそうに退治した魔物を見ている。
「こりゃすげー。」
「これは村人だけではどうにも出来ないだろうな。」
「この爪見てみろよ。生身で喰らうと思うとゾッとするぜ。」
各々が魔物の姿をまじまじと観察し感想を述べている。オライオンが魔物の死骸をこのまま燃やすか、村人を安心させるために広場に晒すか考えていると、一人の兵士が呟いた。
「でもこいつ、なんか小さくないですか?」
オライオンの思考が止まる。
(なん……だと……。)
「ん?そういえば村人の話だと七尺って話だったけど、こいつぁ五尺くらいしかないなぁ。」
兵士の言葉にオライオンの動悸が激しくなる。そんなオライオンの様子に気付かず兵士達は話続ける。
「まあ、恐怖でこいつが大きく見えたって事だろ?こんなのに遭遇したら仕方ないさ。」
「うーん…そうですかね……」
オライオンの背中に冷たい汗が流れる。
(まさか……。)
「いや、だってこいつ……」
(まさか……!)
「……角がないですよ?」
オライオンの顔から血の気が引いた。
その瞬間、村の南側で切り裂くような悲鳴があがった。
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