姫様、招かれる。
アナスタシア達はベルナール邸の一室にいた。今はフカフカのソファに座りながらメイドに出された紅茶を飲んでいる。
「はぁ~こりゃ凄ぇなぁ~。」
グレンが部屋を見渡しながら感想を述べる。
「ヴォルフ様、大丈夫でしょうか?」
「うーん、ジイの事だから大丈夫でしょ。そろそろ来るんじゃないかな。」
「お前ら、なんか落ち着いてるな……。」
「グレンさんは緊張してるんですか?」
「いや、こんな豪華な部屋だとなんかむず痒くてな。」
「うーん、そんなものかな。」
城暮らしの二人にとってはベルナール邸の豪華さも驚くような事ではなかった。グレンがソワソワしていると、部屋の扉が開きこの家の主人、ロイド=ベルナールが入ってきた。後ろにはルードが付き従っている。
「お待たせしてすみませんでした。」
「いえ、それよりエマさんは大丈夫でしたか?」
「はい、少し落ち着いたようで今はメイドが一緒にいます。」
「まあ、あんな目にあったんだ。怖がるのも無理ねーな。」
「いやはや、皆さんにはなんとお礼を言っていいか。」
ロイドがアナスタシア達の向かいのソファに座る。
「今、私達の仲間が憲兵の詰所に事情を説明にいってます。そろそろこちらにやってくると思うのですが。」
「そこまでして頂いていたとは。本当にありがとうございます。ルード、その方が来られたらお通ししてくれ。」
アナスタシアの話を聞いてロイドがルードに指示する。
「かしこまりました。時に、お嬢様に同行していたはずの御者のゴードンは見かけませんでしたでしょうか?」
ルードの問いかけにアナスタシアが答える。
「御者は殺されてました。馬車も動かせなかったのでその場に。」
「なんということだ!?奴らそこまで……。ルード、くれぐれも手厚く弔ってやってくれ。家族への補助もな。」
「かしこまりました。」
ルードが頭を下げる。
「そういえばまだ皆さんのお名前を伺っておりませんでしたな。」
「私はナーシャ、こちらの二人はプリシアとグレンです。」
「ナーシャさん、プリシアさん、グレンさん、この度は娘のエマを助けて頂き本当にありがとうございました。」
ロイドが深々と頭を下げる。
「いえ、偶々通りかかっただけです。それより、襲ってきた奴に心当たりがあるみたいですが。」
「あ、ああ。それですか……。」
ロイドが言葉を濁しルードを見る。ルードもやや困った表情になり重い空気ぐ漂う。
「旦那様、この方々に頼んでみてはいかがでしょうか?」
「う、うむ。しかしなぁ……。」
「事は一刻を争うかもしれません。お嬢様の為にも。」
「あ、ああ。そうだな、エマの為か。」
二人のやり取りをどうしていいのか分からず見ているアナスタシア達にロイドが顔を向ける。
「失礼ですが皆さんはこの国の方ではありませんね?」
「は、はい。旅の途中でこの国に来ました。」
「やはり。自分で言うのも恥ずかしいですが、この国で私を知らない者も珍しいですからね。」
「ロイドさんは確か議員でしたよね?」
「はい、そうです。」
「旦那様はこの度、議長選挙に立候補されていらっしゃいます。」
「ああ、確か選挙があるとかジイさんが言ってたな。」
ロイドが話を進める。
「ナーシャさんは剣士……なのでしょうか?」
アナスタシアの帯びている剣を見ながらロイドが問う。
「まあ、はい……。」
今度はグレンを見るロイド。
「グレンさんも?……。」
「一応、武闘家の端くれかな。」
「なるほど、そうですか。」
ロイドはしばし考え込み、話し始めた。
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