姫様、お礼を言われる
「ここか……。」
女の子を背負ったグレンが豪邸の門を見上げる。
「灯りはついてますね。」
「呼べば誰か出てくるんじゃない?」
「よし、おーーいっ!誰かいないかっー!おーーいっ!!」
グレンが大声で叫ぶ。
「ん……んん…………。」
背中で寝ていた女の子が目を覚ます。
「ん……あれ?私……。」
目をパチパチと瞬かせながら自分の置かれた状況を把握しようとする。
「あ、目が覚めたみたいですね。」
「あなたは……?あれ?私、確か……。」
「おっ?もう立てるか嬢ちゃん?」
グレンがゆっくり腰を落とし女の子を立たせてやる。
「ここ……私の家……あなた達は?」
女の子は見知らぬ三人を不安そうに見上げる。
「あー、説明すると長くなりそうなんだけど……。」
アナスタシアがどう言ったものかと思案していると邸宅の扉が開き中から背広をきた壮年の男が出てきた。
「あっ!ルード!」
「お嬢様っ!」
ルードと呼ばれた男は走ってやってくる。
慌てて門を開けると女の子の前に膝をつく。
「あぁ、お嬢様っ!良かった……。帰りが遅いので心配していたんですよ!」
「う、うん……えっと……。」
「あの、この方々は?」
ルードが立ち上がり警戒したように尋ねる。
「わ、わかんない……私……。」
「失礼ですが、貴女方は?」
女の子を背に庇うように立ちルードがアナスタシア達に尋ねる。
「えっと……私たちは、その子が馬車から連れ去られそうになってる所に出くわして……。」
「なっ!本当ですかお嬢様!?」
「う、うん……。」
女の子はまだ状況が整理出来てないのか困ったように頷く。
「全身黒ずくめの奴でな、そいつには逃げられたんだがその子だけは取り戻せてな。」
「で、街の人がその子がベルナール家の子って言ってたんで送り届けに来たんだ。」
グレンとアナスタシアの説明にプリシアがウンウンとしきりに頷く。
「そんなっ!なんという事だ!お嬢様まで狙うなんて……。」
ルードは頭を抱える。
「大変失礼致しました!主に代わって深くお礼申し上げます。」
ルードが地面につきそうなくらい頭を下げる。
「いや、そんな……。」
アナスタシアが両掌を振りルードに頭を上げさせる。
すると邸宅の入口から声がする。
「ルードっ!何かあったのかっ!」
「あっ!お父様っ!」
「旦那様っ!」
どうやら女の子の父親らしい。こちらに歩いて来るのがみえた。
「エマっ!」
「お父様っ!」
女の子、エマが父親の元に走っていく。二人は抱き合うとゆっくりこちらにやってきた。
「ルード、この人達は?」
「はい、旦那様、実は……。」
ルードが一連の事情を主人に話す。
話しを聞くと主人は怒りとも強風ともとれる表情になる。
「なんとっ!そこまでするのか……。」
そして、アナスタシア達の方に顔を向けて、
「事情はわかりました。なんとお礼を言えばいいかっ!本当にありがとうございました。」
「いや、本当にたいしたことは……。」
先程と同じ様に掌を振るアナスタシア。
どうにもこういうのは苦手だ。
「申し遅れました。私はロイド=ベルナールと申します。この子は娘のエマ。」
隣にいるエマの頭を優しく撫でる。
エマがチョコンとお辞儀する。
「こんな所で立ち話も……どうぞ中でお礼をさせて下さい。ルード、皆さんを。」
「かしこまりました。皆様、どうぞこちらへ。」
三人は、どうする?と顔を見合せる。
「じゃあ、少しだけ。」
アナスタシアが答えると、三人は邸宅の中へ案内される。
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