姫様、観光を楽しむ
賑やかな雑踏の中を四人は目的地に向かって歩く。
「あっ!見えました!」
「ほぇ~。確かに立派だね。」
「ふむ。これは一見の価値ありですな。」
「へ~あれが議事堂ってやつか。」
首都の中心部にある議事堂。
それを見学しに一行はやって来た。
観光案内冊子を手に先頭を歩くプリシアに先導されながら朝から一行は各観光地を巡っていた。
「今は閉会中なので中も観れるみたいですよ。」
堂内は赤絨毯が敷かれており、半円形の議会室には数百の議席がある。
「王がいない国ってのも変な感じだね。」
「ふむ。民主主義というやつですな。スタンの繁栄を見る限り成功しているみたいですな。」
堂内を見学して外に出ると、ちょうど正午の鐘が鳴った。
「そろそろお昼にしようか。」
「そうですね。近くに食事できるお店は……。」
周りを見渡すと少し先に皿に盛られた料理の絵が描かれている看板が見えた。
「あそこにしようか。」
広場を挟んで反対側にある店へ向かう四人。
すると前方を赤い風船を手にした小さな女の子が走って横切る。
「キャッ!」
女の子は小さな段差に躓き転んでしまった。
「あっ!」
プリシアが急いで駆け寄る。
アナスタシア達もプリシアの後を追う。
「大丈夫ですか?どこかケガしてませんか?」
女の子は膝を擦りむいてしまい声を挙げて泣いている。
「ああ、これくらいなら大丈夫ですよ。痛いの痛いのとんでけー!」
プリシアが女の子の膝に手を添えると、淡い光が溢れる。
「はいっ!もう大丈夫。まだ痛いですか?」
女の子はポカンとしてプリシアの顔をまじまじと見つめ、
「いたくない……。」
と呟いた。
「良かったです。さあ、立てますか?」
手をさしのべるプリシア。
女の子はプリシアの手をとり立ち上がる。
「ふうせん……。」
立ち上がった女の子がまた目に涙を浮かべて呟やく。
「メイのふうせん……。」
アナスタシア達が上を見ると先程女の子が手放した赤い風船が三階建の民家の軒下に引っ掛かりふわふわ揺れていた。
「あ~。あれか。」
「とれますでしょうか?」
「よし、俺がいこう。」
グレンが跳躍しようとすると、隣を影が駆け抜けた。
影は器用に建物の軒や屋根を跳んであっという間に風船を手にして着地する。
「ほら、今度はしっかり握ってるんだぞ。」
精悍な身体つきをした男が膝をつき女の子に風船を差し出す。
「あ……ありがと……。」
男はフッと笑うと立ち上がる。
「あ、あの……ありがとうございました。」
プリシアも礼を言う。
「へ~。凄い跳躍力だな。」
アナスタシアが感心する。
「たいしたことないさ。それに俺がやらなくてもそこの兄さんが行ってくれたんじゃないか。」
男はグレンを見ながら言う。
「いや。アンタの身のこなしただ者じゃねーな。」
「買い被るなよ。」
男は背を向けると片手を挙げて去っていった。
「メイっ!」
少し離れた場所から母親が走ってきた。
「もうっ!ちょっと目を離したらすぐどこか行くんだから。」
女の子を抱き締める母親。
「ふふふ、メイちゃんはお転婆なんですね。」
母親が立ち上がると頭を下げる。
「すみません、ありがとうございました。」
「いえいえ。お母さん来てくれて良かったですねメイちゃん。」
「うん……。」
女の子が母親の脚にしがみつきながら頷く。
「ではこれで失礼します。」
四人は母向けるとに別れを告げ目的の店へと向かった。
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