姫様の買い物
「おぉぉぉ!」
アナスタシアが目を輝かせながら店内を巡る。
さすが町一番と言うだけあって品揃えは豊富だ。
見たことのないない形状の武器や防具が並べられている。
アナスタシアはその一つ一つを手にとっては構え、掲げ、じっくり眺める。
(これはまた長くなりそうじゃな……。)
ヴォルフが溜め息をつく。
「お主は必要な物はないのか?」
グレンに尋ねる。
「ああ、必要な物はここにあるからな。」
グレンは自分の荷物が入っているズタ袋を揺らす。
「ふむ、ではプリシア。ちょっと来なさい。」
「え?私ですか?」
プリシアがヴォルフの後についていく。
「お主の杖も買わんといかんからな。さて、どれにするか……。」
「え!?私のですか?」
「ふむ。」
「そんな……いいんでしょうか?」
「お主も魔術の道を歩み始めたのじゃからな。愛弟子のために選ばせてくれ。」
「ヴォルフ様……!」
プリシアが目を潤ませた。
「ありがとーございます!!」
ヴォルフに抱きつくプリシア。
「フォフォフォ。大袈裟な奴じゃ。ほれ、ちゃんと自分でも選びなさい。」
「は、はい!」
プリシアもアナスタシア同様に目をキラキラさせながら並べられた杖を眺める。
「うーん。でもぉ……どれがいいのかわからないです……。」
魔術師の杖は高価なら良いというわけでもない。
良し悪しには材料や宝石の種類、製作者や作られた際に込められた魔力など様々な要素がある。
「ふむ、これはトパーズか……。こちらはヒスイ……。」
貴石であればある程魔力の集中や増幅効果も期待できるが、自分の練達度合いと合っていなければ無用の長物である。
「あっ!これ可愛い!」
プリシアが手に取ったのは、杖というよりは指揮棒、タクトに近い大きさの小型の物だった。
「ふむ。なるほど、それなら邪魔にならんし腰に差しておけるのう。」
「はい!それにピンクで可愛いです!」
「これは……ガーネットか。悪くないのぅ。」
すると店の主人が声をかけてきた。
「ほう、お客さんなかなか目が肥えてるね。その色のガーネットを付けた杖はなかなか入らないんだよ。その割には値段も手頃だしお買い得だよ。」
「そうさのぅ。では、これにするか。」
「はい!ありがとうございます!」
こうしてプリシアの初めての魔術杖が決まった。
先に会計を済ませてアナスタシアを待っている間もプリシアは嬉しそうに抱きしめたりしている。
「ハハハ。まるで孫にプレゼントするお爺ちゃんだな。」
グレンが言うと、ヴォルフは僅かに照れた顔をしてみせた。
「さて……あっちはどうかの?」
「ありゃぁ時間かかりそうだぜ?」
ヴォルフとグレンは並んで壁にもたれ未だ物色中のアナスタシアを見守る。
いつの間にか店員を従えてあれやこれやと尋ねている。
(あとでチップでも渡してやらんと気の毒じゃな……。)
今回もアナスタシアの剣選びは長引きそうだった。
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