姫様、村に到着
アイソルから海を挟んで南にある大国シン。
その南部に聳える霊峰ホウライ山。
さらにその頂上にあるスージン寺院は武の探求者たる修行僧達が住まう修練の場だ。
「"拳聖"チョウカロウが残したとされる武術、"四聖拳"。それを極めんがために多くの修行僧が日々精進していると聴いておりますが。」
「拳聖!?」
アナスタシアが目を輝かせる。
「拳聖?」
逆にプリシアは首を傾げる。
「なんかずっと昔にいた滅茶苦茶強い武闘家らしいぜ。」
「はぇ~そんな方がいたんですね。」
グレンの大雑把な説明をアナスタシアが補足する。
「拳聖チョウカロウって言ったら1500年前に魔王と戦った勇者の仲間の一人じゃないか!」
幼少の頃から勇者の伝説を何度も読み聞きしてきたアナスタシアにとってはその名は憧れである。
「あ~なんかそんなこと教わったような。」
「なんで知らないのさ。」
「いや、座学はあんまり得意じゃなくてさ。」
「そんなんでいいのか……一応修行僧なんだろ。」
アナスタシアが呆れて言うがグレンは頭をかきながら笑っている。
「ふむ。それでお主は山を降りて下界で修行の旅というわけか。」
「まあな。修行の形は一つではないってのが師匠の言葉だからな。」
その後もグレンは興味津々のアナスタシアに修行の事や山での事を村に着くまで質問責めにされた。
※※※※※
「じゃあ、俺は村長の家に行ってくるわ。」
「ふむ。では儂らは宿へ向かうとするかの。」
「村にある宿はそこの角を曲がった先にある一軒だけだ。俺も用事が済んだら行くよ。」
「わかった。じゃあ行こうか。」
「はい!」
夕刻、村に着いた一行は二手に別れグレンは村長の所に報告に行くことにした。
グレンが村長宅に着くと村長は僅かに驚いた顔で言った。
「おぉ!無事じゃったか!良かった良かった。なかなか帰ってこんから心配しておったんじゃよ。」
「頼んでおいてなんですが、村の事で旅の人まで巻き込んでしまったんじゃないかって……。」
村長の奥さんがお茶を差し出す。
「すまねぇな。色々あってすぐ戻ってこれなかったんだ。」
「それで……村民の行方はわかりましたか?」
「ああ……。えっと、何から話すか……。」
グレンは自分が湿原に向かってからの事を話した。
なかなか手がかりが見つからなかった事、旅の三人組との出会い、ラムール草の群生地、小屋、シピンと魔物の事、そして薬草を採りに行った者達の末路。
「あぁ……なんという事じゃ……。」
グレンが話を終えると村長は頭を抱えた。
「すまん。クソ野郎には逃げられたんだが、一応国境兵には伝えてある。すぐに手配書を近くの町や村に配ってくれるそうだ。」
「そうですか。早く見つかるといいんじゃが。」
「あと、その籠の中の薬草は亡くなった人の家族に分けてやってくれ。少しは金になるだろ。」
「わかりました。そういう事なら遠慮なく……。」
「すまねぇな。結局一人も助けられなかった。」
「貴方のせいではありません。気になさらないで下さい。亡くなった者の家族もずっと待ち続けるよりは……。」
「そうか……。じゃあ俺はそろそろ。」
グレンが椅子から立ち上がる。
「旅の方、本当にありがとうございました。」
「いや、たいした事はしてねーよ。あっ、あとその薬草の穴場なんだが兵士達には他に漏らさないでくれって頼んであるから。」
「おお、それはありがたい。ラムール草は村の貴重な収入源なので。」
「ただ、またいつ魔物が出るかもしれねーしくれぐれも気をつけろって皆に教えてやってくれ。」
「わかりました。重々伝えます。」
「じゃあな。」
頭を下げる村長に軽く手を振りグレンは村長宅をあとにする。
(はぁ……なんだかなぁ……。)
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