姫様、去る
(くそっ!くそっ!なんで俺がこんな目にっ!)
シピンは手足を縛られた状態で這う。
兵士に引き渡されたら最期、一生牢屋の中か極刑だ。
(そんなの許せるかっ!)
部屋の中にあった木製の机に向かって這っていく。
机の脚を背に身体を起こすと後ろ手に縛っている縄を木の脚の角に擦りつける。
(逃げるっ……絶対逃げてやる!)
なるべく音を立てないように縄を擦り続けること数時間。
執念で縄を切る。
(やった!)
自由になった手で足の縄をほどこうとするシピン。
(くそがっ!固く結びやがって!)
焦りで震える手でなんとか縄をほどくと静かに立ち上がる。
音を立てないよう慎重に窓を開ける。
窓枠を跨ぎ外に出る。
(小屋の正面は駄目だな。池の方から迂回するしかないか。)
シピンは見つかる可能性のある玄関側ではなく、裏の池の方からぐるっと回り込んで脱走を謀る。
この群生地を捨てるのは心底悔しいが命には代えられない。
上手くいけばほとぼりが冷めた頃にまた戻ってくればいい。
今は逃げることだけ考えよう。
アナスタシア達に倒された大蛙の死体を避けながら池の岸辺を歩くシピン。
(しかし、どこへ行くか……そうだっ!金!無一文じゃどうしようもないじゃないか!)
池の水面に赤い光が二つ灯る。
(くそっ……仕方ない。一旦隠れてあいつらがいなくなったら小屋に取りに戻るしかないか。)
ヒュッ!っとシピンに何かが巻き付いた。
「え?」
パシャン!
シピンの姿が池の中に消えた。
※※※※※
朝、グレンがシピンを閉じ込めている部屋のドアを開けるとシピンの姿はなかった。
奥の窓が開け放たれており、床には切れた縄が落ちていた。
「あの野郎っ!逃げやがった!」
グレンが皆にその事を伝える。
「仕方ない。国境の兵に事情を話して指名手配してもらおう。近隣の町に知らせてもらえば捕まるだろ。」
「ふむ、そうですな。幸い顔も名前もわかっておりますしな。」
「まあ、あのヒョロヒョロ野郎なら町にでるしかないか。」
四人は小屋を出る支度をする。
昨晩倒した大蛙の死体をヴォルフが魔術で燃やし尽くし小屋をでる。
「ねぇ、グレンが寄ってきた村の人達にそこの薬草持って行ってやらないか?」
アナスタシアの提案にプリシアが手を叩いて賛成する。
「いいと思います!私も手伝いますね!」
ヴォルフとグレンも賛同する。
「ふむ、では手分けして採りますか。」
「そうだな。籠ならそこにあるしな。」
アナスタシア達は群生地のラムール草を籠いっぱいに採取する。
「よし、そろそろ行くか。」
グレンが籠を背負う。
四人は数時間かけて、ここ迄来た道を戻りグレンと出会った場所まで出た。
「ここから湿地帯を出るまで半日くらいだ。」
グレンを先頭に四人は国境を目指す。
やがて夕陽が刺す頃には広大な湿地帯を抜けて平原へと出た。
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