姫様、疲れて寝る
シピンは足と腕を縛られ小屋の一室に転がされていた。グレンがシピンの頬を軽く叩き目を醒まさせる。
「おい、オッサン!起きろ!」
「ん……ん……んあ?」
シピンが目を開けると椅子に座ったアナスタシアが脚を組んで自分を見下ろしていた。
「ヒッ!た、助けてっ!」
無様にもがくシピンにアナスタシアが冷たく言い放つ。
「ここ最近、スタン共和国の村から何人もあのラムール草ってのを採りに来ていたはずだ。その人達をどうした?」
「あっ……えっ……それは……。」
先程グレンを魔物に喰わせようとした際に自ら語ってしまっている。
観念してシピンは話した。
「皆あの蛙の化け物に喰わせた……。」
「酷いっ……。」
プリシアが悲痛な顔をする。
「何人いたか覚えているか?」
「えっ……えっと6人……いや、8人?いやっ!11人だっ!嘘じゃないっ!」
「てめぇ……村から来た人を全員殺っちまったのかよ。」
グレンが怒りの籠った声で言う。
「ち、違うっ!喰い殺したのはあの蛙どもだ!俺はその準備をしただけで!」
だから自分は責められるべきではない、言下にそう言っていた。
アナスタシアは弁明するシピンを見つめていたが溜め息をついて立ち上がった。
「もういい……。こいつは国境で兵士に受け渡そう。」
アナスタシアの提案にヴォルフとプリシアが賛同する。
「ふぅ、そうですな。ロートルかスタン、どちらで裁かれるかはわかりませんが、法の裁きに任せましょう。」
「お二人がそれでよろしいなら。」
「お主はどうじゃな?」
ヴォルフの問いかけにグレンが目を閉じて思案する。
暫しの後に三人に向かって答える。
「わかったよ、確かにそれがいいのかもな。」
「ありがとう、グレン。」
アナスタシアが礼を言い微笑む。
四人はシピンを残して部屋を出ていく。
夜明けまで昨日もてなされた部屋で過ごす事にする。
ここならシピンを閉じ込めている部屋の入口も見える。アナスタシアとプリシアは別室で休ませている。
「そういや何でジイさんはあの毒入り茶に気づいたんだ?」
グレンが床に座り壁に背を預けながら尋ねる。
「確信があったわけでない。ただ気にかかる事があっただけじゃ。だから念のため儂らは飲まずに窓から捨てたわけじゃ。」
「まあ、今となっては胡散臭い奴ではあったな。やたらあの薬膳茶モドキを飲ませたがってたし。」
「それもあるが、この小屋を発見した時に外に籠が積まれておったじゃろ。ざっと十個以上はあった。一人で使うには多すぎる量じゃ。」
「へ~なるほどな。」
「あの茶を振る舞おうとした時も奴はこんな奥地で一人で暮らしていると言っていたが人数分のカップを出してきた。こんな場所で客人用の食器を用意するのはちと変な話しじゃ。」
「過去にここに人が来た事があるってことか。」
「そうじゃな。じゃがこの小屋をあの男が直して住み着いたというのは嘘じゃろうな。おそらく、このラムール草の群生地を知っている者達が共同で使っていた小屋を奴が乗っ取ったんじゃろう。」
「なんでわかるんだ?」
「さっきこの小屋の中を見て回ったらこんな物があった。」
ヴォルフが奥の棚から持って来た物は写真立てに入った写真だった。
そこには中年の男と女、夫婦だろうか。
それと子供が写っていた。
「家族写真か?」
「うむ、この小屋を使っていた者が飾っていた物じゃろう。」
グレンはヴォルフを見つめ感嘆する。
「たいしたもんだぜ。そんなことまでわかるのか。」
「フォフォフォ。まあ、年の功じゃよ。」
「まったく、俺が飲む前に止めてくれよな。」
グレンがニヤリと笑いながら言う。
「お主が止める間もなく飲み干しおったんじゃろ。これからはもっと警戒することじゃな。まあ、儂らの中で最も強そうなお主が飲んだことで奴が油断したかもしれんしな。」
「ははは、それなら俺の犠牲は無駄じゃなかったってわけか。」
「そういう事じゃ。」
老人と青年は静かに笑い合った。
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