姫様、間一髪
舌が切断され空中に投げ出されたアナスタシアを抱えてグレンが着地する。
(えっ?)
白くなりかけている意識の中、アナスタシアは辛うじてグレンの顔だけはわかった。
グレンはアナスタシアをそっと地面に置くと、すぐさま舌を斬られてジタバタしている大蛙に向かっていく。
吐き散らかされる酸を軽やかに避けて間合いに入ると身体を沈める。
"昇燕"
跳躍と同時に大蛙の顎に拳を放つ。
巨体が浮き上がる程の拳打を受けて大蛙は地面に伏して痙攣している。
ヒュンッ!
空を切る音と共にグレンの蹴りが大蛙の頭部を粉砕した。
「ふぅ、ようやくマシに動けるようになったぜ。」
「グレン……か……?」
消え入りそうな声でアナスタシアが名を呼ぶ。
「ああ、助かったぜ。やっぱりあの茶かよ……。」
「ああ、ジイのカンが当たったみたい……ぐっ!そ、それより魔物を……。」
膝に力を入れて立ち上がろうとするアナスタシアだが先程の衝撃が響いて足元がおぼつかない。
そんなアナスタシアをグレンが手で制す。
「大丈夫だ、俺に任せろっ!」
そう告げるとヴォルフがてこずっている最後の一匹に向かって疾走していく。
大蛙はヴォルフの放つ氷の矢を避けるため跳躍する。
その刹那グレンがさらに上から踵落としで大蛙を叩き落とした。
「グエッ!!」
地面に打ちつけられた大蛙が苦しそうな声をあげる。
「爺さんっ!!」
「うむっ!でかした!」
ヴォルフの放ついくつもの氷の矢が大蛙に降り注ぎ滅多刺しにする。
舌を出して暫く痙攣した後に最後の一匹も息絶えた。
「やれやれだな。」
「全くじゃ。それにしてもお主、よくそんなに動けるもんじゃ。解毒したとはいえ、あと2時間位は痺れたままかと思ったが。」
「まあ、それなりに鍛えてるからな。けど、全然本調子じゃないな。」
拳を握ったり開いたりしながらグレンが答える。
「それにお主の体術、どこかで……。おっと!」
ヴォルフが何かを言いかけるがフラフラと歩いてくるアナスタシアに気づき慌てて駆け寄る。
「ご無事ですかっ!」
「な、なんとかね……。」
早速ヴォルフが魔術で治癒する。
「さて、あのオッサンをどうしたもんか……。」
グレンが離れた場所で膝をつき何事か喚いているシピンを見る。
「バカなっ!なんでこんなことに……。俺の研究っ!金っ!なんでこんなやつらに……。」
アナスタシア達が近づいていくと、
「ヒィィィッ!」
と悲鳴を上げて逃げようとするが腰が抜けてしまい尻餅をつく。
「来るなっ!来ないでっ!悪かった!あ、謝るから命だけはっ!そうだっ!アンタらも好きなだけラムール草を持っていってくれ!町で売れば大儲けできるっ……ぶへっ!」
アナスタシアに顔面を殴られたシピンが鼻血を吹きながら倒れる。
「とりあえず縛り上げてから話を聴くか。」
グレンが目を回しているシピンを担ぎ上げ小屋の方に歩いていく。
アナスタシアもヴォルフの肩を借りながら後に続いた。
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