姫様の夜
日没後、村の東西南北の位置に篝火がたかれ兵士が見張りに立つ。
隊長オライオンは村の中心部の広場に陣取り同じく篝火を焚き腕を組んで立っている。
村人達は討伐隊に労いの言葉をかけながら各々自宅へと帰っていった。
今夜から魔物討伐が終わるまでは日没後は外出禁止令を出してある。
これで魔物を迎え撃つ準備は整った。
※※※※※
日付が変わる頃、宿屋にいるアナスタシアは果報を寝て待つ心境ではなく、宿屋の女将に頼んだ温めたミルクを飲みながら自室から窓の外を眺めていた。
「魔物ってどんなやつだろう?」
「今晩で決着はつくのだろうか?」
「我儘を言ってもついていった方が良かったかな?」
疑問は尽きずグルグルと頭の中を巡っている。
ズズッとミルクを啜ろうとするとカップが空なことに気づいた。
少し考えてもう一杯分だけ起きていようと決めて部屋を出る。
厨房は好きに使って良いと言われているので自分で作ってみようと階段を降りていく。
丁度、主人が掃除をしているところに出くわしたのでもう一杯ホットミルクを頼むと快く作りに行ってくれる。
「おや……姫様、まだお休みではなかったのですか?」
ヴォルフが階段を降りてきた。
「ジイこそまだ寝てなかったの?」
「ファファファ……年寄りは眠りが浅いのですよ。姫様、今夜襲撃がなければ明日は日中に村を見て回ることになっております。あまり夜更かしは……。」
「うん、わかってる。あとミルク一杯分だけね。」
「左様でしたか。案外この視察も長引くかもしれませんな。まあ気長に待ちましょうぞ。」
「そうね。」
アナスタシアが窓の外を見ながら答える。
「やはり気になりますかな?」
「そりゃぁね……兵達は朝まで見張りをするんだよね。」
「そうですな。魔物が現れなければ。日中は二組に別れて休息をとります。」
「なんか、付いてきたいって言ったのに私だけ寝るのは気が引けてさ。」
ヴォルフが目尻を下げて嬉しそうに言う。
「姫様、民を守るのが兵士たる彼らの役目です。姫様は姫様の役目が御座います。ただ、もし気が引けるとおっしゃるならば戻ってきた彼らに労いの言葉をかけてあげて下され。それだけで彼らはまた民の為に役目を果たせましょう。」
「そっか……うん。そうだね!そうしてみるよ。」
アナスタシアがそう答えると厨房から主人がカップを持って戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ。」
「うん、ありがとう。」
礼を述べカップを受け取るアナスタシア。
「すまんがご主人、儂にもワインかなにか酒をいただけるかな。眠る前に一杯と思ってのう。」
「でしたら、ワインをご用意いたします。お部屋でお待ちくださればグラスでお持ちいたしますので。」
「それはありがたい!では頼みます。」
二階へ戻るアナスタシアとヴォルフ。
「じゃあお休みジイ。あまり飲み過ぎないようにね。」
「はい、お休みなさいませ姫様。お心遣い痛みいります。」
二人がそれぞれ自室に戻る。
アナスタシアは再び窓際に座り外を眺める。
ミルクを少しずつ飲みながら討伐隊の動きがないか待ってみる。
しかし、その夜襲撃を報せる笛の音は聞こえなかった……。
お読みいただき誠にありがとうございます。
一言でも構いませんので、コメントや感想を頂けると励みになります。宜しくお願いいたします