姫様、泊まる
シピンが炊事場で四人分のお茶を煎れ終えるとプリシアがヒョコッと現れた。
「おや?どうされました?」
「あ、はい。運ぶのをお手伝いしようかと」
「ああ、そうでしたか。ありがとうございます。ではこれをお願いします。」
シピンがトレイに乗せたカップを渡す。
「きゃっ!」
プリシアが小さく悲鳴をあげる。
シピンからトレイを受け取る際に置いてあった籠に肘が当たりひっくり返してしまったのだ。
床には数種類の薬草が散らばる。
「あっ!すみません!私ったら!」
プリシアが慌てて謝罪する。
「いえいえ、大丈夫ですよ。お気になさらず。」
「でもぉ……。」
「まあまあ、ここは私が片付けますのでどうぞそれを運んで下さい。」
「は、はぁ。わかりました。本当にすみませんでした。」
プリシアは皆のもとへ煎れたばかりのお茶を運んでいく。
それを目の端で見送りながらシピンは床を片付け始めた。
※※※※※
シピンが片付けを終えて客人の元へ行くと、四人は談笑中だった。
シピンに気づいたプリシアが立ち上がり頭を下げ謝る。
「ははは、大丈夫ですよ。」
シピンは笑顔で答える。
「いやはや、シピン殿。結構な物を頂きました。」
ヴォルフが空のカップを見せる。
シピンは四人のカップが空になたなっている事に気づく。
「それはそれは、お気に召して頂けて良かった。」
「では、我々はこれで失礼しますか。」
ヴォルフが席から立ち上がろうとするとシピンが制止する。
「まあまあ、今日はここに泊まられてはいかがですか?もう日没まで時間もありませんし。」
「しかし……ご迷惑でしょう?」
「そんな事はありませんよ。実は奥にまだ二部屋ありましてね。ベッドなどはありませんが掃除はしてますし野宿よりはマシでしょう。」
四人はこの申し出にありがたく甘えることにした。
小屋の正面からは見えなかったが、今いるシピンが生活している大部屋とアナスタシア達が泊まる二部屋とは渡り廊下で繋がっていた。
「ここです。どうぞ自由に使ってください。」
案内された部屋は二部屋ともランプと棚があるだけと殺風景な部屋だった。
とはいえシピンの言うように湿地帯で野宿するよりは遥かにマシだ。なにより見張りをたてなくていい。
「ありがとう、助かるよ。」
アナスタシアはシピンに礼を言いプリシアと一緒に部屋へと入る。
隣の部屋にはヴォルフとグレンが泊まることになった。シピンは夕食も用意すると言ってくれたが、そこまでしてもらうのは悪いとアナスタシア達は固辞し早々に休むことにした。
アナスタシアとプリシアは携帯していた食糧を食べると明日の出発に備えて日没してすぐに横になった。
ヴォルフとグレンも明日に備えて早く休もうと床についた。
※※※※※
深夜、廊下の軋む音が聴こえた。
グレンは人の気配を察知し目を覚ます。
ギィ……ギィ……という音はグレン達がいる部屋の前で止まった。
ゆっくり静かに部屋のドアか開く。
僅かに開いた隙間から目だけがこちらを見ていた。
御一読頂き誠にありがとうございました。
もし良かったらブックマークやコメント宜しくお願いいたします。