姫様と水辺の小屋
「ああ、実はこの湿原に薬草を採りに来た人が何人も行方不明になっててな。家族から頼まれて探しに来たんだ。」
グレンが男にここに来た経緯を話す。
「ほう、それは大変ですね。なるほど、それで先程は手掛かりがどうとか仰っていたのですか。」
「そういう事です。つかぬことを聴きますが、貴方はここで暮らしていらっしゃるのかな?」
ヴォルフが男に尋ねる。
「え?ああ、はい。申し遅れました私はシピンと申します。薬学の研究をしております。」
「ほう、薬学とな」
「はい、見ての通りここにはラムール草が群生しておりまして。研究材料にはこと欠かないんですよ。」
「なるほど、ずっとこの小屋に?」
「いえ、定期的に町にでますよ。ここのラムール草を売って生活してます。」
シピンはヴォルフの問いにスラスラ答える。
最初よりも警戒が解けたのだろうか。
「残念ですが薬草を採りに来た人はいませんねぇ。そもそも湿地帯の道から外れてこんな奥地までくる人はいませんよ。」
「ふむ。確かに。ところで、あれは……池ですかな?」
ヴォルフが入口とは逆側の窓を指差す。
窓の外には確かに池か湖のような光景が見えた。
小屋の裏手から桟橋が伸びているのも見える。
「ん?ああ、少し大きめの池ですよ。魚なんかも釣れるんですよ。」
「ほう、なるほど。この小屋はご自身で?」
「いえ、もともとここにあった廃屋を直して使ってるんですよ。もともと町に住んでたんですが、研究の為にここに住み着いたんです。」
「それはそれは、実に熱心なことじゃ。」
「ははは、ありがとうございます。このナメル湿原はラムール草以外にも薬草が自生してましてね。研究者としてはありがたい場所ですよ。ところで……お茶を。」
シピンは四人のカップを見つめる。
「あっ、すまんすまん。せっかくだし頂くぜ。」
グレンはもう冷めてしまったお茶を一気に飲み干す。
「うげっ、苦っ!」
「ははは、まあ薬みたいな物ですからね。でも身体にはいいんですよ。他の皆さんもどうぞ。」
「あっ、はい、頂きます。」
プリシアがカップに手を伸ばす。
「待ちなさいプリシア。」
ヴォルフが静止する。
「え!?はい!」
慌てて手を引っ込めるプリシア。
「薬膳茶は温かいうちに頂く方が良く効くというものじゃ。シピン殿、よければ炊事場をお借りしてよろしいかな?」
「え?は、はい。構いませんが。でしたら私が煎れ直してきますよ。」
「おお、かたじけない。薬草の研究家の煎れて下さったお茶じゃからな。最高の状態で味わいたくての。」
「ははは、そうですか。では少々お待ちください。」
シピンは嫌な顔一つせずに冷めたカップを持って炊事場に引っ込む。
「ジイ、今の何?」
「ヴォルフ様、どうしたんですか?」
「爺さん、いくらなんでもお茶にこだわり過ぎだぜ。年取るとそうなるのか?」
三人が小声でヴォルフに詰め寄る。
一斉に問い質され少したじろぐヴォルフ。
「いや、少し気になることがありましてな。」
「気になること?」
「はい、ただ確証がないので今はこれ以上は。申し訳ありませんが少し協力してくだされ。」
ヴォルフ以外の三人が顔を見合わせた。
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