姫様とグレン
謎の乱入者にアナスタシアはたじろぐ。
「ぶ、武道家!?」
「おうっ!」
グレンと名乗った男はニカッと笑った。
その背後では虎が怒りに喉を鳴らしこちらを睨んでいる。
「お、おいっ!後ろっ!」
アナスタシアが危険を知らせると同時に虎がグレンと名乗った男に飛びかかる。
その爪が届く直前、
スパンッ
風を切る音がした。
グレンが振り向き様に回し蹴りを放った音だ。
虎は地面に叩きつけられギャンッと声をあげると二度と動かなくなった。
「いっちょあがり!晩飯ゲットだぜっ!」
グレンは虎に向かって合掌すると、ヒョイッと担ぎ上げる。
呆気にとられている三人に近づいてくるグレン。
「で、アンタは?」
「えっ?」
「え?じゃない。アンタの名前だよ。こっちが名乗ったんだからそっちも名乗るのが筋だろ?」
正論である。しかし非常識な登場をした目の前の男に言われるのはなんとなく納得しかねた。
「ア、アナス……いや、ナーシャ!」
「ナーシャか。いい名前だな。で、アンタは?」
後ろのプリシアを指差す。
「あ、えっと……プリシアと申します……。」
「なるほど、プリシアか。じゃあプゥちゃんだなっ!」
「プ、プリシアでお願いします……。」
プリシアがひきつった顔で言う。
グレンは気にせず隣のヴォルフを見る。
「ヴォルフじゃ。」
「ヴォルフ爺さんだな。オーケーわかった。」
ひとしきり自己紹介を終えるとアナスタシアがグレンに尋ねる。
「グ、グレン。君はこんなとこで何してたんだ?」
「ん?俺か?そうだな……話すと長くなるんだが……。」
グレンが頭をかきながら答える。
「よしっ!この先に俺が野営してる場所があるんだが、そこまで一緒に行こうぜ。そこでゆっくり話そうぜ。ご馳走もするぜ。」
クイッと担いだ虎を見せる。
「い、いや。そこまでは……。」
アナスタシアが辞退しようとするが、グレンはズンズンと歩いていく。
「どうしよう……?」
アナスタシアが振り返り二人に尋ねる。
「悪い人じゃなさそうですけど……。」
「ふむ、そうですな。それにこんな場所で何をしていたのか気にはなりますしな。」
「うーん。じゃあ付いていってみようか。」
三人は頷き合い早足でグレンを追いかけた。
※※※※※
「ちょっと待ってろよ!すぐこいつを捌いて喰わせてやるからな。」
焚き火の側に座っている三人に虎を捌きながら言う。
「いやっ!大丈夫っ!そんなにお腹空いてないし。」
なかなか残酷な光景に流石のアナスタシアも顔がひきつる。
プリシアにいたってはゲッソリしている。
「おいおい、人間は他の生き物の命を喰っていきてるんだぜ。ちゃんと感謝していただかないとコイツも浮かばれねーぜ!」
(いや、殺ったのは君じゃ……。)
アナスタシアは心のなかで思ったが敢えて言わなかった。
「それに虎の胆ってのは精がつくんだ。俺ら武道家にはご馳走なんだ。」
しばらくグレンの料理風景を三人で見守る。
「よしっ!あとは焼くだけだ。」
そう言うと切り分けた肉を串に刺し焚き火にくべていく。
「へへ、これでも結構料理は得意なんだぜ。」
グレンも焚き火の側に腰を下ろす。
「さて、なんだったか……。」
「君がここで……。」
「おいおい、君なんて呼ばれ方はむず痒いな。グレンでいいぜ。」
「あ、ああ。グレン、こんなとこで何してたんだ?まさか虎刈りでもあるまし。」
「まあな。俺は……。」
グレンがナメル湿地帯に来た理由を語り始めた。
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