姫様と一緒に
「さて、今日はこれくらいにしますかな。」
「ふぅ……わかった。」
「だいぶ体内の魔力を認識できるようになりましたな。」
「うーん、どうだろ。」
「認識できれば次は操作できるようになります。日々の鍛練ですな。」
「はーい。私はもう少し自分でやってみるよ。」
「ふむ、そうですか。ならば儂は先に戻らせて頂きますかな。姫様も無理は禁物ですぞ。」
「わかってるって。少しだけね。」
ヴォルフがアナスタシアに一礼して部屋に戻る。
途中、一階受付によりワインを一瓶とグラスを受けとる。
部屋の前につき、ドアを開けるとプリシアがこちらに背を向け椅子に座っている。
「プリシア戻ったぞ。」
声をかけるが反応がない。
どうやらヴォルフに気づいてないようだ。
ヴォルフが近づき何をしているのか覗き込むと熱心に本を読んでいるようだ。
「魔術に興味がおありかな?」
「キャッ!!」
突然のヴォルフの問いかけに飛び上がらんばかりに驚くプリシア。
「ヴォ、ヴォルフ様!?」
「フォフォフォ。すまん、すまん。驚かすつもりはなかったんじゃが。」
嘘だ。
ヴォルフは年甲斐もなく悪戯心を出しプリシアを驚かせようといきなり声をかけたのである。
「はぁはぁ……ビ、ビックリしました。」
「すまなかったのぅ。一応声をかけたんじゃが。」
「そ、そうでしたか。すみません、気づかなくて。」
立ち上がり頭を下げるプリシアをヴォルフが手で制する。
「ところで熱心に魔術書を読んでおったが……。」
「あっ!すみませんヴォルフ様の本を勝手に。テーブルに置きっぱなしだったのでつい……。」
「かまわんよ。読みたければいつでも言うといい。しかし、プリシアが魔術に興味があるとはのぅ。」
「いえ、その興味というか……その、私も魔術が使えたらお二人のお役にたてるかな~て。」
「なんじゃ、そんなこと気にしておったのか。お主はお主の役目を立派に……。」
「でもっ!私が魔術が使えて怪我を治したりできれば姫様やヴォルフ様も少しは楽になるかなって。ロンさんの怪我も治せたかもしれないし、魔物に襲われた人を一人でも多く助けられたんじゃないかって。」
プリシアが必死に言い募る。
ヴォルフはプリシアの言葉を全部聴くと優しく話し始める。
「プリシアよ、例え魔術が使えたとしてもなんでもできるわけではない。魔術は万能ではないし、儂ら魔術師も出来ることに限界がある。」
「はい……。」
プリシアは叱られた子供のようにしょんぼりしている。
「それに姫様も儂もお主には十分助けられておる。無理に魔術を学ぶ事はない。」
「はい……。」
「じゃが…………そうじゃの。旅を続ける以上危険は付きまとう。お主が自分を守れる手段として魔術を使えるようになるのは良い事かもしれんな。」
「えっ……?」
「もしお主にその気があるなら、やってみるか?」
「えっ!?えっ!?いいんですか?」
ヴォルフが頷く。
「明日から姫様とともに魔術を学んでみるか?儂で良ければ教えるぞ。」
「本当ですかっ!」
「うむ、しかし儂は厳しいからのぅ。お主に耐えられるか……。」
プリシアはゴクッと唾をのみ答える。
「はいっ!お願いします!」
「フォフォフォ。では明日から始めてみるかの。」
ヴォルフは持っていたワインの瓶の栓を開けてグラスに注ぐ。
「私、頑張って覚えます!」
「フォフォフォ。その意気じゃ。案外姫様より覚えが早いかもしれんな。」
笑いながらワインを一口飲むヴォルフ。
「誰が私より覚えが早いんだ?」
いつのまにか部屋の入口にアナスタシアがいた。
「ぶふぉっ!!!」
盛大に吹き出すヴォルフ。
「ヴォルフ様っ!」
「ジイ……なにやってんの?」
こうしてプリシアの魔術修行が始まるのであった。
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