姫様、内緒にされる
「あっ!立て札がありましたっ!」
プリシアが前方を指差しながら言う。
「うむ、どうやらあの先が湿原みたいですな。」
「だね。あそこを抜けてれば国境の河があるのか。」
町の魔物を討伐してから5日、一向は国境へ向けて歩みを進めていた。
地図を見るとこの先に広大な湿原が広がっており、さらに先には他国との国境になっている大河、シール河が流れている。
「えっと……この先ナメル湿原。南、シム村……だそうです。」
プリシアが立て札を読み上げる。
「ほう、近くに村があるのか。姫様、どうされますか?」
「そうだね。今から湿原に向かっても夜になっちゃうし
今日は村で休もうか。」
「村は……あっちですかね。」
「うん、うっすらと村が見える。」
「ほう、よく見えますな。」
三人は村を目指して南へと進む。
「西の国境を抜けるとまた新しい国ですね。なんだかワクワクします。」
「スタン共和国か。私も初めてだ。」
「スタン共和国は世界でも珍しい共和制の国ですじゃ。」
三人は次なる目的地、スタン共和国の話に花を咲かせながら歩く。
しばらく進むと村の入口へと到着した。
「さて、宿を探すか。」
「はい!」
村の大通りを歩いているとすぐに宿は見つかった。
宿というよりは民宿のようなこじんまりとした建物ではあったが他に宿らしいものはない。
とはいえ、野宿続きの一向にには十分なものであった。宿に入ると愛想のいい女将が出てきて一向にを出迎える。
聞けば一室しか空いていないとのこと。
ベッドも1つしかないのでアナスタシアとプリシアがベッド、大きめのソファでヴォルフが休むことにした。
「普段はガラガラなんだけどねぇ。ほら、こないだから騒ぎになってた魔物がいたでしょ。その魔物がやっつけられたらしいんだけど、その魔物を目当てに来てた他所の国の賞金稼ぎの人達が帰る前にうちに寄ってくれるんですよ。」
女将に案内されて部屋に入る三人。
その後はそれぞれ好きに時間を過ごす。
外で日課の鍛練をしているアナスタシア、プリシアの入れてくれた紅茶を飲みながら窓辺の椅子に腰掛け本を読むヴォルフ。
プリシアは一階でせっせと三人の洗濯物をしている。
「ふぅ。終わりました~。」
プリシアが籠に入れた洗濯物を抱え戻ってきた。
「うむ。ご苦労じゃったの。ほれ、こっちで茶でも飲んで休むといい。」
ヴォルフがプリシアの分の紅茶を淹れようとする。
「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、これを干したら頂きますね。」
そういうとテキパキと部屋の中に洗濯物を干し始めるプリシア。
「すまんのぅ。雑事は任せっぱなしじゃな。」
「ふふ、いいんですよ。私、こういう仕事好きなんです。」
ヴォルフは楽しそうに鼻唄を口ずさみながら洗濯物を干すプリシアを目を細めて眺める。
「はいっ!おしまい!」
手を叩いて一息つくプリシア。
「うむ、ご苦労じゃたな。ほれ、こっちに来て座るといい。」
「はい!」
ヴォルフがプリシアに紅茶を淹れてやる。
「ふふ、ありがとうございます。」
「フォフォフォ。まあ、これでも食べるとよいぞ。」
ヴォルフは掛けてあった鞄から紙に包まれた物を取り出しもってくる。
包みを開けると良い匂いのする焼き菓子がでてきた。
「まぁ!これは?」
「フォフォフォ。実はさっきこっそり買って来たんじゃ。店の前を通った時にあんまり美味そうな匂いがしたのでな。」
「ふふ、確かに良い匂いですね。」
「二人分しか残ってなかったのでな、こっそり夜中に一人で食べようと思ったんじゃが。」
「でしたら是非ヴォルフ様が召し上がってください。」
「いやいや、年寄りには多すぎてな。いつもの礼じゃ。」
「でも~、いいんでしょうか。」
「フォフォフォ。姫様には内緒じゃぞ。」
ヴォルフがぎこちなくウィンクしる。
プリシアは少し迷ったがヴォルフの厚意を受けることにした。
「ふふふ。では、遠慮なく頂きますね。」
「うむ、儂も頂くかの。」
二人は焼き菓子を口に運ぶ。
「美味しい!」
「これは美味い!」
二人は微笑み合いながら夕暮れのティータイムを過ごすのであった。
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