姫様の作戦会議
作戦会議用の部屋に討伐隊9名と村の男衆2名、ヴォルフ、そしてアナスタシアが集まっている。
アナスタシアは部屋で休むようにヴォルフ達が説得しようとしたが、アナスタシアが頑として譲らなかったのである。
仕方なくアナスタシアを含めた13名が部屋の真ん中に置いた円卓を囲うように座り今晩からの作戦を話し合っている。
円卓の上には村の地図が広げられ兵士達の守る位置が赤い丸で記されている。
「このように村の東西南北の入り口に2名づつ配置し、村の中心にある広場に私が待機いたします。」
討伐隊長のオライオンが地図を指差しながら説明する。
「各位置の兵士は各々違う音が出る笛を所持し、魔物に遭遇したら笛を吹きます。」
「なるほど、笛の音を聞き分け魔物に遭遇した兵士のいる場所に他の兵士も集結するのじゃな?」
「はい、その通りです。」
ヴォルフが確認するとオライオンが頷く。
さらにオライオンが続ける。
「そこで、そなたらに聞きたいのが魔物の特徴だ。思い出せる限りの情報を知りたいのだ。」
村の男達の方を向きオライオンが尋ねる。
急に話を降られドギマギする二人だが、記憶を手繰り寄せ魔物の特徴を話す。
「えーっと……背は7尺程でしょうか。大きな猿のようでしたが腕が長く額から角が生えておりました。それから尻尾がウネウネうごいていました!」
「そうそう。あと全身が茶色の毛で覆われていました。あっ!それと大きな牙が生えておりまして、家畜を噛み殺しておりました!」
「畑の野菜や家畜を食い散らかしたら物凄い早さで山の方へ帰って行きました。」
「いつ来るかはわからないのですが、いつも夜になると現れます!明るいうちは見たことないです!」
村人達が必死に説明するのを隊長や兵士たちが聞き逃すまいと耳をそばだてている。
村人達が話し終わるとオライオンが礼を述べて兵士の組分けを伝える。
会議中アナスタシアはじっと黙って話を聞くだけだった。
アナスタシアとて自分の立場はわかっている。
素人である自分が戦略に口を出していいわけはないのだ。
これは盤上遊戯ではなく、本当の戦いだ。
「で、儂はどうする?」
ヴォルフがオライオンに尋ねる。
「ヴォルフ様は姫様と一緒に宿屋にいてください。魔物がいつ頃来るかもわかりませんので、徹夜になりかねません。お二方はお休みください。」
「ふむ。それはありがたい。では討伐は皆に任せるとするか。」
「御意。」
こうして作戦会議はお開きとなった。
日没までもう少し、宿屋の主人に頼み少し早めの夕食をとることになった。
兵士たちは自分達の部屋で、アナスタシアとヴォルフはアナスタシアの部屋でとることにした。
「ねぇ、ジイ。魔物は今晩現れるかな?」
「そうですなぁ……村人の話を聞く限り、魔物と言っても獣に近いようですし、我々討伐隊が来て村の様子が違うことを警戒して現れないかもしれませんな。」
「本当にジイは討伐に参加しなくていいのかな?」
アナスタシアの問いにヴォルフが破顔する。
「ファファファ……この老いぼれに出来ることなど御座いませんよ。儂に出来るのはこうして姫様の話し相手になることくらいです。」
「でも、ジイは魔術師でもあるじゃないか。兵士たちが頼りないわけじゃないけど少しでも戦力はいた方がいいんじゃない?」
「儂などいても足手まといです。隊長のオライオンはなかなかの強者。他の兵も選りすぐりの者たちです。彼らに任せて我々は視察の勤めを果たしましょう。」
「チェッ……。」
ヴォルフと共に討伐を近くで見ようという企みは無理そうである。
アナスタシアは不満そうにステーキを切り分け口いっぱいに頬張った。
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