姫様、探す
「ロン=フーコー?うちにはいないなぁ。」
「いや、うちにはロンなんて奴はいないぜ。」
「見りゃわかるだろ?うちは一人でやってんだよ。」
アナスタシアとヴォルフは手分けして王都の酒場を周りロンが働いていた店を探していた。
ロンの荷物の中にフルネームがわかるものがあったので彼から聞いていた酒場で下働きをしていたという情報を元にシラミ潰しに都の酒場を周っているのである。
「ここもダメか……。」
アナスタシアは道行く人に尋ねながら酒場を巡っていた。
先ほどの店で10軒目だ。
店を出るとさっそく通行人を呼び止め近くに酒場がないか尋ねる。
どうやら、この道を真っ直ぐ進んだ突き当たりに一軒あるらしい。
そろそろヴォルフとの待ち合わせ時間だ。
この店を尋ねたら一度ヴォルフと合流することにしよう。
アナスタシアは通行人に礼を言い教えられた店にむかう。
「ここか……。」
件の店は通りの突き当たりにあり、看板には酒瓶の絵と店名が書かれていた。
ドアを開けるとチリンチリンと鈴が鳴る。
「ん?いらっしゃい。悪いけどまだ準備中なんだ。」
顎髭を生やした中年の男がモップで床を掃除しながらアナスタシアの方を見る。
「あ、いや……違うんだ。実は聴きたい事があって。」
「は?客じゃないのか?じゃあ帰った帰った!こちとら雑用係が逃げて俺一人で準備しないといけないんだ。忙しいんだよ!」
「じゃ、じゃあすぐ終わらせるから!ロン=フーコーって青年がここで働いてなかった?」
アナスタシアが早口で尋ねる。
「は?ロン=フーコーだ?お前さん、アイツの知り合いか?」
「え!?ロンを知ってるの?」
男が掃除の手を止める。
めんどくさそうに溜め息をつくと、ポケットから煙草を取り出しマッチで火をつけ吸い始める。
「ふぅ……。ああ、ロンはうちで働いてたよ。こないだまでな。」
「そうか。やっと見つけた……。」
「で、お前さんはアイツの何なんだ?これか?」
男が右手を前に出し小指を立てる。
アナスタシアは慌てて否定する。
「ちっ、違うよ!私は……仲間というか……。」
「仲間?仲間ってなんの仲間だよ?」
「えっと……懸賞金のついてた魔物は知ってる?」
「ああ、勿論な。うちも討伐目的でこの国に来た連中に儲けさせてもらったからな。まさか……?」
「うん。その魔物討伐の為にロンと組んでたんだ。」
男は大きく溜め息をついて毒づく。
「チッ、あの馬鹿がっ!」
「え?」
「あの大馬鹿野郎が。お袋さん残してそんな事してたのかよ。」
「ロンは何も言ってなかったの?」
「ん?ああ、ある日いきなり今日で店を辞めるって言ったっきりこなくなりやがった。全くいい迷惑だぜ。」
「そうだったのか。それでロンの家の場所を知りたいんだけど。」
「んなもん本人に聞けよ。」
「あ、ああ。実は今は一緒にいないんだ。」
「なんだよ、また逃げたのかあいつは。」
「ロンの今は何処にあるんだ?」
「悪いが俺も知らねーんだよ。」
「え?そうなの?じゃあ何か手がかりとかないかな?」
「家は知らねーがお袋さんの名前と仕事先なら知ってるぜ。」
「本当!?」
「ああ、あの馬鹿が辞めた次の日にわざわざ謝りに来たからな。本当にあの馬鹿息子、お袋さんに迷惑かけやがって。」
アナスタシアは男からロンの母親の名前と仕事先を聴き礼を言って店を出ようとする。
「あっ!嬢ちゃん、あの馬鹿にあったら言っといてくれ。お袋さんに心配ばかりかけてんじゃねー。戻ってきたら根性叩き直してやるってな!」
アナスタシアは振り向き頷くと店を出てヴォルフとの待ち合わせ場所に向かった。
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