姫様の責任
アナスタシアが目を覚ますと部屋には誰もいなかった。身体を起こして大きく伸びをする。
カーテン越しに日の光が部屋にさしている。
どうやら昼頃だろうか。
今回はいったいどれくらい寝ていたのか。
帰ってきてからすぐに眠ってしまったのは覚えている。アナスタシアはベッドを降りて立ち上がると下着姿のままな事に気づく。
そういえば帰ってきて風呂にも入らず寝てしまった。
いろんな事がありすぎて思考が纏まらない。
アナスタシアは風呂に入りながら考えを纏めようと思い浴室へ向かおうとすると、部屋のドアが開きプリシアとヴォルフが入ってきた。
「あっ!姫様、お目覚めになりましたか。」
「うむ、ゆっくり眠れたようですな。」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ。」
「身体の傷もだいぶ消えましたね。良かった~。」
プリシアに言われてアナスタシアは自分の身体を見る。確かに魔物に負わされた複数の傷がほとんど消えていた。
「寝ている間にヴォルフ様が魔術と薬草で治してくださったんですよ。」
「そうなんだ。ジイ、ありがとう。全然気づかなかったよ。」
「フォフォフォ。ぐっすりお休みでしたからな。」
「うん、よく眠れたよ。風呂に入って目を覚ましてくる。」
「かしこまりました。準備してきますね。」
プリシアが浴室へ向かう。
そこでアナスタシアはヴォルフが荷物を背負っているのに気づいた。
「ジイ、それは?」
「ん?ああ、これですか……。」
ヴォルフの表情が少し曇る。
「今から王都に行ってこようと思いましてな。ロンの持っていた荷物を彼の家族に届けてやろうかと。彼の事も説明せねばなりませんしな。」
アナスタシアも沈んだ様子で言う。
「そうだね。家に返してあげないと……。」
「はい。丁度派遣された兵士達が王都に戻るというので馬車に乗せてくれるそうです。彼の亡骸も綺麗にして王都で丁重に弔ってくれるとか。魔物討伐の英雄として。」
アナスタシアはなんとも言えない表情になる。
「ジ、ジイ!私も行くよ!私がロンのお母さんに話す。」
ヴォルフが首を横に振る。
「いえ、儂一人で行って参ります。姫様は今暫くここでお休みください。そうじゃ、せっかく魔物も倒したことですしプリシアと町へ繰り出して楽しんできては?」
「ジイっ!」
アナスタシアがヴォルフの目を見て言う。
「ロンを仲間に加えようと決めたのは私だ。彼が死んだのは私の……。」
「それは違いますぞ。姫様のせいではございません。彼があの場に来たのは彼の判断です。命を落としたとしても……。」
「だとしてもっ!ロンを仲間にすると決めた以上は私はロンの命に責任を持たなきゃならない。」
「姫様……。」
「みすみす死なせておいて言えた立場じゃないが……ロンのお母さんには私に話させてくれ。」
ヴォルフはアナスタシアをじっと見つめ思案した後に頷いた。
「御意。」
「ふぅ。ジイ、ありがとう。」
「滅相も御座いません。」
するとプリシアが戻って来た。
「姫様、準備できましたのでどうぞこちらへ。」
「ああ、ありがとう。ジイ、まだ時間はある?」
「はい、出発までは二時間程ありますのでごゆっくり。」
アナスタシアは浴室へ向かう。
「姫様、どうぞ。」
「プリシア……ロンの事……。」
「はい、ヴォルフ様から伺いました。」
意外にもプリシアは落ち着いていた。
「そっか……。」
「姫様、どうかご自分を責めないで下さい。きっとロンさんも姫様が自分を責める事なんて望んでないと思います。」
「うん……ありがとう。」
力なく微笑むアナスタシア。
プリシアは一礼して出ていく。
「はぁ……ダメだな私は。二人に心配かけっぱなしだ…。」
アナスタシアは湯船に浸かりながら天井を見上げながら呟いた。
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