姫様、眠る
「あっ!姫様ー!!」
アナスタシアが宿まで帰ってくると、入口で待っていたプリシアが走ってやって来た。
「姫様、ご無事で良かった……。」
「ああ、ただいま……。」
「終わったんですね。」
「うん、魔物は倒せたよ。」
アナスタシアの表情が優れないのに気づいたプリシアが心配そうに言う。
「姫様、とにかくお休みになって下さい。」
プリシアの顔を見て気が抜けたのかアナスタシアが膝から崩れる。
「きゃっ!姫様!?」
「だ、大丈夫だ。」
「部屋まで私が……!よいしょっ!」
プリシアがアナスタシアに肩を貸し部屋まで連れていく。
疲労困憊のアナスタシアは好意に甘えることにした。
部屋に入ると剣を壁に立て掛ける。
プリシアがショルダーガードとマントを脱がしてくれた。
疲れで朦朧とする中、プリシアに血や泥が着いた服とズボンを脱がされ身体を拭かれる。
(あぁ……もう……疲れ……た……。)
アナスタシアはそのままベッドに倒れこんだ。
下着のまま眠ってしまったアナスタシアにプリシアが毛布をかける。
「姫様、お休みなさい。」
そう言うとプリシアは窓際の椅子に座り、テーブルに突っ伏しす。
(あっ!ヴォルフ様とロンさんのこと聞き忘れちゃった……。)
どうしようか迷ったプリシアだが、アナスタシアが何も言わなかったのだし二人とも無事に帰ってくるだろうと思いアナスタシアの眠りを邪魔しないように静かに帰りを待つことにする。
※※※※※
外は日が暮れ始めてきた。
カーテンを閉めている部屋の中は薄暗くなってきたのでプリシアは壁の燭台に火を灯した。
アナスタシアはまだ寝ているので明るくなりすぎないように2つだけにする。
プリシアは紅茶を貰いに行こうと思い部屋を出る。
一階のロビーで四人分のティーセットを受け取ると、
「ん?プリシア……。」
「あっ!ヴォルフ様!」
丁度ヴォルフが帰ってきた。
「お帰りなさいませ。ご無事で良かった。」
「うむ、まあの。姫様は帰ってきたか?」
「はい、今はぐっすりお休みになられてます。」
「そうか、ならばこのまま寝かせておいてさしあげよう。姫様もたいそうお疲れのことじゃろう。」
「かしこまりました。」
二人は並んで部屋に向かう。
「ヴォルフ様は今までどちらに?」
「ああ、怪我人の治療をな。あとは、魔物討伐の事後処理をな。」
「やっぱりお二人がやっつけたんですか?」
「いや、儂らだけではない。多くの者の協力があってのものじゃ。」
「そうなんですね。でも良かった。これで町の人達も安心ですね。」
「うむ、ひとまずな。」
「あとは、ロンさんの帰りを待つだけですね。ロンさん怪我人の治療を手伝ってたんでしょうか?」
ヴォルフが足を止めた。
「そのことじゃが……ロンの部屋で話すか。」
「は、はぁ。」
プリシアはわけがわからずヴォルフに従いロンの部屋に向かう。
部屋に入ると明かりを灯してヴォルフが窓際の椅子に座る。
「あっ!紅茶をお淹れします。」
「うむ、ありがたい。」
プリシアが二人分の紅茶を淹れる。
「どうぞ。私も頂いちゃいます。」
そう言うとヴォルフの向かい側に座る。
「うむ、旨い。」
ヴォルフが一口すすり感想を述べる。
「ふふ、ありがとうございます。それで……。」
「うむ。ロンのことじゃがな……戦死した。」
「…………ふぇ?」
理解が出来ず間抜けな返事しかできないプリシア。
「あの……えっと……あれ?戦死って……ん?」
どんどん激しくなるプリシアの鼓動。
「せ、戦死って……亡くなった……って事ですか?」
ヴォルフが静かに頷く。
「そんな……!?」
プリシアが口許を抑え絶句する。
プリシアの脳裏にはロンと話した光景が浮かぶ。
そして、魔物が現れた時の光景……。
空だったロンの部屋。
直前にぶつかった人。
もしかしたら、あれがロンだったのでは?
「わ、私がちゃんと止めていれば……部屋にいなかった時にすぐ追いかけていれば……。」
「それは違う。」
俯き自分を責めるプリシアにヴォルフが厳つく言う。
「彼が自分で決めたことじゃ。危機感が足らなかった。自分の力を見誤った。原因はいくつもあるかもしれん。じゃが、それらは他の誰かのせいではない。ましてや、お主のせいでは決してない。自分を責めるでないぞプリシア。」
「でもっ……でもっ……。」
「お主が自分を責めれば姫様も辛かろう。」
「ひ、姫様も……?」
「うむ、彼の死を悼むのは良い。じゃが自分を責めるでない。」
暫く俯き沈黙した後にプリシアがコクンと頷く。
「それでよい。あとは、儂らにできる事をしてやろう。」
「はい、わかりました。」
「いい子じゃ。お主も色々疲れたじゃろ。姫様と一緒に寝てくるとよい。」
ヴォルフが小さい子をあやすように優しく言う。
「そんな!ヴォルフ様こそっ!」
「いやいや、儂はなんとなく目が冴えてな。もう少し起きとるよ。少し考え事もしたいしの。もう魔物もおらんし交代で起きとる必要もないじゃろ。」
プリシアが渋々了承する。
「かしこまりました。でもヴォルフ様も早くお休み下さいね。」
「フォフォフォ。ありがとう。」
プリシアはヴォルフの笑顔を見て心が落ち着くのを感じた。
一礼しロンの部屋を出ていくプリシア。
部屋に一人になるとヴォルフが深い溜め息をつく。
「ふぅ……。」
ヴォルフは重い足取りで一階まで行くとワインを人瓶もらってきた。
「やれやれ……。堪えるのぅ。」
グラスにワインを注ぎ一気に飲み干した。
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