姫様、生きて戻る
プリシアは宿屋のラウンジでアナスタシア達の帰りを待っていた。
最初に聴こえた轟音からしばらくたったが、その後も何度か凄まじい音が町に響き渡り、人々の悲鳴も聴こえる様になっていた。
おそらくアナスタシア達は魔物の元へ向かったのだろう。
部屋からいなくなったロンの行方も気にかかる。
「姫様……。」
しかし自分はここで無事皆が帰ってくるのを祈るしかできない。
宿の前の通りは広場方面から避難してきたであろう人々でごった返している。
皆、恐怖と好奇心の狭間で揺れながら広場の方を眺めている。
きっとあちらの方でアナスタシア達は戦っているのだろう。
何となくだがそう感じたプリシアは目をぎゅっと瞑り無事を祈る。
もう何時間そんなことを繰り返したであろうか。
広場の方から聴こえていた破壊音がなくなった。
通りにいた人々がざわめいている。
「お、おい!魔物を倒したらしいぞ!」
「本当か!?」
「俺、見てこようかな……。」
「バカ!危ないって!」
「あの煙はなんだ!?」
プリシアが宿から外の通りにでてみると人々がそんな事を話していた。
広場の方では煙が天に向かって登っている。
すると遠くから歓声が聴こえてきた。
こちらにどんどん近づいてくる。
「倒した!倒したぞ!」
「やったー!!魔物を倒したぞ!」
「間違いない!広場に死体があった!」
「うぉー!!助かったんだー!」
歓声はあっという間に町中を包んだ。
(よかった!魔物を倒したんだ!)
どうやら魔物を倒したらしい。
あとは、アナスタシア達が無事に帰って来てくれれば……。
プリシアは宿の入口付近で待ち続けた。
※※※※※
「ぐっ!はぁはぁはぁ……。」
ロンの亡骸に祈りを捧げるとアナスタシアは身体の痛みに膝をついた。
戦闘中は気力で耐えてきた痛みが、魔物を倒した今押し寄せてきたのだ。
すかさずヴォルフが寄り添いアナスタシアをゆっくり座らせる。
ヴォルフの手から淡い光が発せられアナスタシアを包む。
「はぁはぁ……ありがとう、ジイ……。」
しばらくそうしていると、アナスタシアはなんとか立ち上がる事ができた。
痛みはだいぶマシになったが疲労困憊であった。
「ジイ、戻ろうか?」
アナスタシアがヴォルフに声をかけると、事後処理に慌ただしくしていた兵士の一人がこちらにやってきた。
「魔術師殿!申し訳ないが我々に手を貸してもらえんだろうか?怪我人がまだまだいて、連れてきた魔術師達や町の医者だけでは手が足りないのだ……。」
兵士の頼みに二つ返事でヴォルフが応じる。
「あい分かった。儂でよければ手を貸しますぞ。ただ、お嬢様を宿まで送ってくれんか?」
「承知した!かたじけない。」
二人の会話を聞いていたアナスタシアが言う。
「いや、私は一人で戻れるよ。」
「しかし……。」
「今は人手が一人でもいた方がいいだろ?私なら大丈夫だから。」
「左様ですか。ならば我々は行って参ります。」
去っていく二人を見送ったアナスタシアはゆっくりした足取りで宿へと歩きだした。
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