姫様、立ち向かう
ロンと組んでから三日目。
今日もアナスタシアとヴォルフは町を歩いていた。
流石にここ数日平穏な日が続いたため、町の雰囲気もやや緩んでいた。
二人は宿に帰る前に最初に魔物が現れた広場を覗きにきていた。
今日も花束が手向けられている。
きっとあの青年が来ていたのだろう。
二人は祈りを捧げて宿に向けて足を向けた。
ズドーンッ!!
凄まじい轟音が後方で鳴った。
反射的に振り返えると町の北端から煙が上がっていた。二人は頷き合い煙が上がっている場所へ急ぐ。
道行く人々が立ち止まり北方を見ている。
アナスタシア達だけでなく、魔物討伐に来ていた者達や王都から派遣されていた兵士達も北を目指し走っている。
目的地に近づくにつれ騒ぎ声が聞こえてくる。
「でッ、出た!」
「に、逃げろっー!!」
逃げて来た人々の流れに逆らって走っていくと、その姿が見えた。
「あれかっ!」
「どうやら現れたようですな。」
前方、二つほど通りを越えた先に黒くて大きな塊が激しく動いているのが見えた。
その塊を囲う数十名の人間が右往左往している。
すると黒い塊が左右に広がったように見えた。
塊は上空に昇ると今度は地面に向かい急降下した。
再び轟音と土煙が上がる。大勢の悲鳴が聴こえた。
「うわっ!」
「ぬっ……なんと!」
視界が戻ると黒い塊、魔物の周りには大勢の人間が倒れていた。
倒れていた人間を腕を伸ばし掴むと、頭から噛み砕く魔物。
「ぎゃぁぁ!!」
「こ、こんなの勝てるわけねー!逃げろっ!」
「ひっひぃぃ!」
あまりの惨状に戦意を喪失した者達が散り散りに逃げ惑う。
「姫様、迂闊に近寄るわけには……。」
「わかってる。あの大きさと固さでの落下攻撃をくらったらおしまいだ。」
魔物は倒れている者達を掴んでは口へと運んでいく。
周りにいるまだ戦意の残っている者達や、誇り高い王都の兵士たちが弓や槍で魔物を攻撃するがその固い外皮に阻まれて傷を負わせる事ができない。
アナスタシアとヴォルフも慎重に間合いをとり、戦いに参加する。
「ジイっ!」
「はっ!」
ヴォルフが魔物に向けて複数の火球を放つ。
魔物の背に当たった火球は外皮に阻まれながらも熱により魔物の注意をひく事はできた。
アナスタシアが周りにいる者達に叫ぶ。
「魔術師がいるなら距離をとって奴の注意をひくんだ!その隙に動ける者はまだ息のある者を連れて避難しろ!」
しかし、曲がりなりにも腕に覚えのある者達である。
いきなり現れた娘に命令されて聞き入れる者などいない。
「はんっ!こんな奴俺達の手にかかれば!」
「えらそうに命令してんじゃねー!」
「俺の魔術にかかればこんな魔物っ!」
期待はしていなかったがやはり連携をとることはできない。
アナスタシアは魔物をヴォルフと二人で倒す方に思考を切り替える。
しかし、できるならまだ息のある者達は救いたい。
すると、近くにいた兵士が声をかけてきた。
「おいっ!もしかして君達は野党一味をで捕まえたっていう二人では?」
「ん?あ、ああそうだけど。」
「やはりそうか!私はアジトに奴らを捕縛に行った隊を率いていたんだ!」
兵士は魔物に注意を払ったまま言う。
「残念だが、今の我々の人数と武装ではあの魔物には歯が立たん。槍も銃もあの固い身体に弾かれるし、連れてきた魔術師達の魔術も気をひく程度にしかならん。」
「みたいだね。無闇に飛び込んでも……。」
目の前では先ほどアナスタシアの制止を聞かず魔物に向かっていった者達が次々と喰い殺されている。
「君達なら……奴をなんとかできるか?」
「…………策はある。」
「わかった。我々に手伝える事があるなら言ってくれ。」
「ありがとう。じゃあさっき言ったようにまだ息のある人達を頼む。あと、町の人達の避難を。」
「わかった。頼んだぞ!」
「こちらこそ!」
兵士はすぐに隊の者達に指示を出し救助に向かわせる。
魔術師隊はヴォルフに合わせて魔物に火の玉を放つ。
魔物の注意がヴォルフ達に向いた隙に兵士達は一斉に負傷者を連れて離脱する。
「よしっ!」
アナスタシアはそう呟くと剣を構え魔物に向かっていった。
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