姫様、認める
「うーん、なかなか諦めないねぇ。」
「困ったものですなぁ。」
アナスタシアは宿の入口で座り込むロンを部屋の窓から見下ろしながら呟く。
「事情はわかったけど、それなら尚更魔物と戦わせるわけにはいかないよ。」
「なんとか、王都へ帰るように説得できんかのう。」
プリシアからロンがなぜ魔物討伐に拘るのかを聞いた二人はロンをなんとか説得できないかと悩んでいた。
「とにかく、ずっとあそこにいられても困るし話をしてくるよ。」
アナスタシアはそういうとロンの元へと向かう。
入口からでて来るアナスタシアを見てロンが慌てて立ち上がる。
「ナーシャ!やっと仲間にいれてくれる気になったのか!」
アナスタシアは小さく溜め息をつきながら首を横に振る。
「プリシアから事情は聞いたよ。だったら尚更君を仲間にはいれられない。君にもしものことがあったらお母さんが悲しむ。」
「し、知ったような事をいうな!アンタらみたいな金持ちに俺の気持ちなんかわかるもんか。」
「金持ちか金持ちじゃないかなんて関係ない。君が危ない目に合う事なんてお母さんは望んでいないよ。」
「ぐっ……。お嬢様なんて呼ばれてる君にはわからないんだ。」
ロンが唇を噛み悔しそうに言う。
「俺たちみたいな貧乏人はなにか一発逆転でもしないと這い上がれないんだ。母ちゃんだって死ぬまで働かなきゃいけないし、俺だっていつまでも下働きで誰かに顎で使われるだけなんだ。」
「……。」
ロンの必死な訴えにアナスタシアは言葉は出ない。
「だから……命懸けだとしても……このチャンスにかけるしかないんだよ。君たちが仲間に入れてくれなくても俺は一人で魔物と戦うよ。」
アナスタシアは宿の二階の窓から見下ろすヴォルフを振り返り、もう一度ロンを見ると深く溜め息をつく。
「…………わかった。」
「え?」
「わかったよ。君と組もう。」
「本当か!?」
「ああ……。ただし、勝手な行動はなし。私達の言うことに従うのが条件だ。」
「ああ!わかった従うよ!ありがとう!」
アナスタシアの手をとり激しく上下に振るロン。
「で、君はどこに泊まってるんだ?」
「あ、いや……宿代なんてないから野宿さ。ははは。」
照れくさそうにロンが笑う。
アナスタシアは何度目かの溜め息をつき宿の中に入り受付へ向かう。
しばしやり取りをした後に再びロンの元に戻ってくる。
「とりあえずそのままじゃ話もできないだろ。一人部屋をとったからとにかく食事と風呂を済ませてからだ。」
「は!?部屋?こんな立派な宿に!?」
「ほら、もたもたしない!魔物はいつくるかわからないんだ。」
「あ、ああ。ありがとう。」
ロンは恐る恐る宿へ入り割り当てられた自室へ向かう。
「私達の部屋はここだから、食事と風呂を済ませたら来てくれ。食事は部屋に持ってきてくれるように言ってあるから。」
「は~。」
ロンは未知の世界に迷い混んだようにキョロキョロと辺りを見回して口をあんぐりと開けている。
アナスタシアはロンを部屋に残しヴォルフ達が待つ自室へ戻る。
「ごめん。ロンと組むことになった。」
「ふむ、仕方ありませんな。逆に一人で魔物に立ち向かう心配がなくなって良かったやもしれません。」
二人はそう話すと、やれやれと椅子に腰を落とした。
その後プリシアが目を覚ますと事情を説明したところでロンが部屋にやってきた。
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