Interlude
ロンに魔物討伐の仲間に入れて欲しいと懇願されてから一晩経った。
宿のラウンジに居座っていた彼は宿の従業員に追い出され今は宿の入口で座り込みをしている。
今日もアナスタシアとヴォルフは町に繰り出すため宿の裏口から出ていく。
プリシアは部屋で留守番をしているつもりだったが、何かを思い立って宿のフロントに向かった。
※※※※※
宿のラウンジから追い出されたロンは、入口近くで座り込みを続けていた。
大志を抱き王都をでてきて数日がたった。
最初は一人で魔物を倒すつもりだった。
しかしこの町に来て、魔物の話を聴くにつれ一人での討伐は無理だと思うようになった。
一人で無理なら誰か他の討伐組に入れて貰おうと町にいた強そうな連中に片っ端から声をかけた。
しかし、どの討伐組からも考える事もせず断られた。
そして最後に出会ったのがナーシャとヴォルフなのだ。正直他の連中に比べれば頼りなさは否めない。
しかし一人で魔物と戦うよりは倒せる可能性はあるだろう。
むしろ、他の組に入るより自分の活躍が増えるかもしれないという思いがあった。
だからなんとしても彼女らを逃すわけにはいかないのだ。
「あの~。」
地面に座っているロンは背後から声をかけられた。
「な、なんだよ、ここなら外だからいいだろ?」
振り替えると見知らぬ女性が立っていた。
宿の従業員かと思ったロンは言い放つ。
「あ、いえ違います。宿の者ではないんですが……。」
「じゃあなんだよ?見せ物じゃないんだ!ほっといてくれ!」
「ご、ごめんなさい……。でもこれだけ……。」
そう言うと女性はロンにバスケットに入ったサンドイッチを差し出す。
「え?」
驚くロンに女性が言う。
「昨日からずっと座っててお腹空いてませんか?良かったらこれどうぞ。」
「は、はぁ……ありがとう……。」
サンドイッチを受け取るロン。
改めて言われると空腹で腹がなった。
「ふふふ、どうぞ召し上がってください。」
「ど、どうも……。」
恥ずかしそうにロンが俯く。
近くにあったベンチに座りさっそくサンドイッチを頬張るロン。
思わず喉を詰まらせむせてしまう。
すると隣に座っていた女性が水筒のお茶を差し出す。
「あ、ありがとうっ!ごほっごほっ!」
「ふふふ、ゆっくり食べてくださいね。」
またしても恥ずかし姿を見られ赤面するロン。
「あ、あの……君は?なんで親切にしてくれるんだ?」
「私、プリシアっていいます。あのロンさんが昨日からずっとここで座り込みしてるって聞いたのでお腹空いてないかな~って思いまして。」
「え?なんで俺の名前を?」
「お嬢様から聞きました。」
「お嬢様?もしかしてナーシャの事?」
「はい、お嬢様とヴォルフ様から昨日の事を聞きまして。」
「じゃあ君は彼女らの仲間なのか?」
「はい、一緒に旅をしています。」
「旅!?君みたいな女の子が?」
「は、はい。まあ。」
「君も魔物と戦うのか?」
「い、いえ私はそういうのは……。」
ロンがプリシアを真っ直ぐ見つめ頭を下げる。
「頼む!君からも二人に言ってくれないか?なんとか俺も魔物討伐の仲間に……。」
「ごめんなさい……それは……。」
プリシアが申し訳なさそうに俯く。
「あの……どうしてそんなに魔物をやっつけるのに拘るんですか?お嬢様もヴォルフ様もロンさんの事を凄く心配してますよ。」
「心配?なにが?」
「なにがって……魔物って凄く強くて凶暴なんですよ。この町でも何人も亡くなってます。」
「知ってるよ。だからこうしてなけなしのお金で剣まで買ったんだ。こいつで魔物をやっつければ俺も兵士の仲間入りだ。」
「そんな……剣を買っただけでいきなり強くなるわけ……。」
「しかしそうか……ナーシャは金持ちのお嬢様だったのか。それじゃ俺の気持ちなんてわからないよ。」
「え?」
「俺はお袋と二人暮らしでね。俺の親父は俺がガキの頃に死んだ。だから俺はお袋一人で育てられた。お袋は朝から晩まで働いてた。年取った今でもまだ働いてるよ。俺も酒場の下働きで少しは稼ぎがあるから二人で暮らしていけてるが、魔物を倒して賞金もらって兵士になればお袋に贅沢させてやれる。今までのぶんも楽させてやりたいんだよ。」
プリシアは言葉に詰まる。
「まあ、そんなわけで俺は諦めるわけにはいかないんだ。ナーシャが認めるまで座り込んでやるよ。飯、ありがとな。」
空のバスケットをプリシアに渡し礼を言うロン。
「でも……お母さんはロンさんに危険な事はして欲しくないと思います……。」
去り際にプリシアはロンに向かって言った。
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