姫様、断る
往来の真ん中で見知らぬ青年に頭を下げられ慌てるアナスタシアとヴォルフはとりあえず事情を聴くために宿泊中の宿屋へ向かった。
ラウンジで紅茶を飲みながら青年の話を聞く。
「で、仲間を探してるの?」
「あ、ああ……。どうしても魔物をやっつけたいんだ。でも俺一人じゃ……。あっ!俺はロンっていうんだ。」
「私はナーシャ。こっちはヴォルフだ。」
「うーむ。そこまで魔物討伐に拘る理由はなにかあるのかのう?」
「ああ……。俺は王都から来たんだけど、魔物をやっつけた賞金をもらって兵士にしてもらいたくて……。」
なるほど。
彼も魔物討伐の報奨に夢を抱いてここに来た口か。
アナスタシアとヴォルフは見合って小さく嘆息する。
「悪いが君と組むわけにはいかない。」
「なっ!なんでだよ!?」
「お主、剣を振ったことなどなかろう?」
「ぐっ……。」
ロンの体型はおおよそ戦いの経験がある者とは違っていた。
「い、いや……。この町に来てからは毎日練習してるんだ!」
「ロン、悪いことは言わないから王都に帰った方がいい。君が思ってるより魔物は強くて凶暴だ。」
「お主が声をかけていた連中は自分たちの命も守らなくてはならない。素人のお主を仲間に加えれば自分たちが生き残る確率が下がってしまうと判断したから断ったのじゃ。勿論、儂らもな。」
少し強目にヴォルフが諭す。
ロンは下を向いて唇を噛んでいるが、顔を真っ赤にし反論する。
「ならっ!荷物持ちでもなんでもやるから!仲間に入れてくれ!」
「間に合ってるよ。王都に帰るんだ。」
「じ、じゃあ足手まといにならないように剣を教えてくれよ!一生懸命やるからさ!」
ロンの無茶苦茶な要求に二人は困り果てる。
「断る。王都に帰るんじゃ。魔物討伐なんかより地道に働いて……。」
「かっ勝手な事言うな!アンタらに何がわかるんだ!」
ロンがテーブルを叩いて叫ぶ。
ラウンジ中の視線が集まり、ロンはばつが悪そうに下を向く。
アナスタシアとヴォルフは深く溜め息をつき席を立つ。
「兎に角、君を仲間には入れれない。忠告はしたからな。」
「な、仲間に入れてくれるまで動かないからな!」
「はぁ……勝手にしなよ。」
二人は自室へ向かう。
二階からラウンジを振り替えるとロンは腕組みをしラウンジのテーブルに居座っていた。
二人は部屋に戻りプリシアが寝ているのを確認すると、ロンに見つからないように宿の裏口から中庭にでて日課の剣と魔術の鍛練を始める。
「若い者が夢や野望を持つのは良いことですが、今回は相手が悪すぎますな。」
「……まあね。あの調子で色んな討伐組に声をかけてたんだな。」
「ふむ。やる気と度胸だけは買いますが。」
「ただ……悪質な連中に盾代わりに利用されないか心配だな……。」
アナスタシアが憂いを帯びた表情になる。
「姫様……。」
「いや、悪い。始めようか。」
「御意。」
日没まで鍛練を続け部屋に戻る途中、ラウンジを覗いてみるとロンはまだ同じ席に座っていた。
部屋に入るとすでにプリシアが目覚めており二人を迎える。
夕食前にアナスタシアは汗を流すため風呂に入り、三人は外に食事にでかける。
「あれ?こっちから行かないんですか?」
裏口から外に出ようとする二人にプリシアが不思議そうに尋ねる。
「あ、ああ。まあ色々あってね。食事しながら話すよ。」
「はぁ。」
ハテナを浮かべながらプリシアが頷く。
チラッとラウンジを見るとロンは未だに動かずその場所にいた。
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