姫様、乞われる
アナスタシア達が町に来てから5日目の夜、未だに魔物は現れなかった。
アナスタシアとヴォルフは部屋で寝ているのでプリシアは宿のラウンジで窓の外を眺めながら町の様子に注意していた。
魔物が現れたらすぐに二人に知らせるという己の役目を果たすために一生懸命なのだ。
「ふぅ……。」
プリシアは考える。
旅に出てからというもの自分は本当に二人の役に立てているのだろうか。
仕方ないとはいえ、いざ戦いとなったら自分は何もできず隠れるか守られるだけなのだ。
「ダメダメ!仕事に集中!」
プリシアは首を振り頬を両手で叩く。
落ち込んでる場合ではない。
自分は自分の出来ることをするのだ。
そう気合いを入れ直す。
(あっ!そうだ……。)
何事かを思いつきプリシアは席を立ち部屋へ向かうのだった。
※※※※※
賑わう町の往来をアナスタシアとヴォルフは並んで歩いていた。
日課となった町の巡回だが未だに魔物が現れない。
相変わらず町には物々しい格好の連中が多いが、数日前によりはやや緊張感は薄れている気がする。
「待ってると現れないもんだね~。」
「まあ、そういうものです。タンザ村の時もそうでした。」
「そっかー。そうだね。」
「そういえば、先程プリシアから何か受けとっておりましたが?」
「ああ……あれか。ふふ……。」
アナスタシアは微笑むとポケットから折り畳まれた紙を取り出しヴォルフに見せる。
「昨日の晩に、宿の客や従業員に魔物の話を聞き込みしてくれたらしい。」
「ほう……。それはありがたい。」
ヴォルフが紙を開いて見た途端固まる。
「こ、これは……。」
そこには、聞き込みの内容をまとめな魔物の絵が描かれていた。
「これは、なんとも味のある絵ですな……。」
「だろ?」
魔物は耳の大きい豚?のような生き物に翼が生えており、全体的にゴツゴツとした岩のような輪郭をしていた。
それが独特の歪な線で描かれており、吹き出しで「がおーっ!」と書かれている。
「なるほど、これは恐ろしい魔物ですな……。」
「プリシアも自分の出来ることを頑張ってくれてるんだ。私たちも気合い入れて頑張らないと。」
「そうですな。」
日も真上に登った頃、二人は宿への帰路についた。
すると前方で言い荒らそう男達がいた。
なんとなく近くまで行ってみると魔物討伐に来たと思しき男たちに剣を腰にさげた青年が何事か頼み込んでいる。
「頼むよ!俺も仲間に入れてくれよ!」
「しつこいなー。断るって言ってるだろ!お前みたいなひょろ長いモヤシ野郎が役に立つわけないだろ。」
「そんなっ!そこをなんとか!」
「うるせーなぁ。邪魔だどけっ!」
すがり付く青年は屈強な男に突き飛ばされて尻餅をつく。
野次馬をかき分け男達は去っていき、後には青年だけ残された。
アナスタシアは青年に近寄り手をさしのべる。
「大丈夫か?」
青年はアナスタシアを見上げ少し恥ずかしそうに手をとる。
「あ、ああ……。大丈夫だ。ありがとう。」
青年は立ち上がり尻に付いた土を払う。
「じゃあ」と言って立ち去ろうとするアナスタシアを青年が呼び止める。
「あの!もしかして、君も魔物討伐に?」
アナスタシアが振り向く。
「ん?ああ、そうだけど。」
青年が一瞬考えた後に決心したように言う。
「お、俺と組まないか!いや、組んでくれ頼む!」
勢い良く頭をさげる青年を見てアナスタシアとヴォルフは顔を見合せて驚いた。
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