姫様、頼まれる
夕食時には少し早かったのでまだ閑散とした店内で四人はテーブルを囲む。
「魔物が現れたのは7日前です。僕達は広場のあのベンチに座って話をしてたんです……。」
青年は魔物に襲われた日の事を語り出す。
「日も暮れてきたので、どこか食事ができるお店に行こうとしたんです。そうしたら、急に空が暗くなったんです。空を見上げたら……奴が広場の上を旋回してたんです。」
青年はその時の恐怖を思い出したのか震えている。
「だ、大丈夫ですか?」
プリシアが気遣うと、青年はすいませんと謝る。
「まるで獲物を物色している鷹みたいでした。いや、実際そうだったんでしょう。奴にとって僕達は獲物だったんです。広場には他にも大勢人がいたんですが、みんな空を見て唖然としていました。」
「それはそうじゃろう。いきなりそんな魔物が現れては。」
ヴォルフが相槌を打つ。
「はい、僕も何が起きたのかわかりませんでした。すると奴は広場目掛けて急降下してきたんです。広場中から悲鳴があがりました。そして……僕達の近くにいた男性から血飛沫があがったんです。」
プリシアはその状況しぎゅっと目を閉じる。
「その人の方を見ると……アイツの手に捕まれて、腰から上を喰われてました。」
青年は一呼吸おいて続ける。
「そこからは無我夢中でした。兎に角、彼女の手を引っ張り逃げようとしました。ですが、奴はその場で手当たり次第人を襲い始めました。広場が破壊されて、破片が飛び散りもう無茶苦茶でした。」
「大きさは?そいつはどれくらいの大きさだったの?」
アナスタシアが質問する。
「近くで見ると蝙蝠みたいな奴で、背は十尺位ありました。蝙蝠と違うのは両手と翼が別だったことと、とても固いことです。」
「固い?固いってそいつが?」
「はい、騒ぎを聞きつけてやってきた兵士様達が槍や弓でやっつけようとしていたのですが、全く効いていませんでした。まるで石みたいに固いんです。」
「うーん、厄介じゃのう。」
「奴は手当たり次第暴れて、僕達も巻き込まれてしまい……僕は……手を放してしまったんです。」
心底悔いるように青年は言う。
「奴は倒れた僕に目をつけ近づいてきました。僕は恐怖で腰が抜けて……」
恥じ入るように話す青年にこれ以上は酷かとアナスタシアが止めようとするが、青年は目で大丈夫だと伝える。
「僕は目の前に落ちていた兵士様の槍を掴んで振り回しました。でもアイツは僕を掴んで喰おうとしたんです。無我夢中で槍をつきだしたら、たまたまアイツの鼻に刺さって、そしたらアイツは僕を放り投げたんです。僕は地面に叩きつけられて気を失いました。」
青年は一度言葉を区切る。
「じゃあ……後の事は……。」
「はい、気が付いたら病院のベッドに寝ていました。だからその後の事は人伝に聞いただけです。左足を失くした事も……彼女が奴に喰い殺されたことも。」
アナスタシア達は何も言えない。
しばらく四人は黙ったままだ。
そんな中、青年が口を開く。
「すみません、こんな話をして。自分が何も出来ないからって貴女達に仇をとってもらおうなんて。ズルいのは分かってるんです。でも……。」
「いや、私達こそ酷な事を聞いてすまなかった。」
「そうじゃな。しかし、助かりましたぞ。」
「少しはお役にたてたでしょうか?」
「少しなんてもんじゃない。何も知らずに遭遇してたと思うとゾッとするよ。」
「そうですな。とても有益な情報でしたな。」
「そうですよ!貴方が話てくれたことは無駄にしません!」
三人に言われて青年の目が潤む。
「ありがとう……ありがとうございます。」
青年はアナスタシア達に何度も礼を言い去っていった。それを見送って三人も宿へ戻ることにした。
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