姫様、情報収集
魔物が出没するという町、レーゾンに到着した一向はまず宿泊先を探すことにした。
しかし、手頃な値段の宿はことごとく満室で仕方なく町で一番高い宿に泊まることにした。
それでも一室しか空いてなかったが。
「しっかし、右も左も賞金目当ての連中だね。」
「ですな。ほれ、あの辺の連中はどうやら野宿みたいですぞ。」
二人の言うとおり、町には魔物退治にかけられた賞金目当ての輩が溢れていた。
腰に剣をぶら下げた者や槍を背に差している者、資金が潤沢な者は全身鎧を纏っている者もいる。
三人もとりあえず情報収集のために町に繰り出した。
「宿の人に聞いたんだけど、この先の広場に現れたらしい。」
「ふむ、こんな町中にですか。」
「うん。見た目は蝙蝠みたいな奴で日没してすぐに西の空から飛んできたみたい。」
「空飛ぶ魔物ですか~。」
「飛行するとなると厄介ですな。」
宿で手に入れた情報をもとに広場へ向かうアナスタシア達。
しばらく歩くと件の広場へと出た。
人通りはそれなりにあるのだが、皆物々しい格好をしているので、恐らく魔物退治が目的なのだろう。
広場にある石の長椅子近くの地面には赤黒い染みが広がっていた。その側には花束が置かれていた。
「これって……。」
プリシアが恐る恐る聞く。
「ああ、魔物に襲われた人の血の跡だろうね。四人が犠牲になったって言ってた。」
アナスタシアの答えにプリシアが震え上がる。
「なるほど、空からやってこられては侵入を防ぐのは至難でしょうな。」
「だね。戦い方も考えないと。」
「作戦会議ですね!」
プリシアが努めて明るく手を叩きながら言う。
すると側にいた数名の男達が笑いながら近寄ってきた。
「おいおい、嬢ちゃん本気か?」
(はぁ……。)
アナスタシアは面倒臭そうに顔を向ける。
「英雄ゴッコなら他所でやった方がいいぜ。」
「……。」
侮られるのは仕方ないとはいえ、毎回毎回こんな感じではうんざりしてしまう。
「さっさと喰われてくれるなら良いが、他の奴を巻き込んだりされちゃあ迷惑だからな。」
「ああ、間違って背中から斬られたんじゃあ笑えないぜ。」
ヴォルフが溜め息をつき、プリシアはおろおろとアナスタシアと男達を交互に見る。
「そうか、じゃあお互いに邪魔にならないように気を付けよう。」
アナスタシアが落ち着いて答えるが、その態度が気に入らなかったのか男達はさらに挑発する。
「腰の剣はオモチャか?爺さんも大変だな、孫達のお守りか?」
「フォフォフォ。可愛い可愛い孫達じゃよ。だからあんまり苛めんでくれ。」
「くっ……。行くぞ!」
挑発に乗ってこない三人に苛立ち男達が去っていく。
「はぁ……毎回これだよ~。」
「フォフォフォ。仕方ない事です。」
「でもでも、失礼ですよ!」
三人は花束に祈りを捧げてその場を去ろうとすると、杖をついた青年に声をかけられた。
「あの……失礼ですが、貴女達も魔物討伐に?」
「うん。そのつもりだけど……。」
アナスタシアが振り向いて青年を見る。左手で杖をつき、ゆっくり近づいてくる。
側で見ると分かるが、青年の左足は義足だった。
「これですか?これは魔物にやられたんですよ。」
「ほう、ではそなたは魔物に遭遇した……。」
「はい、あの日この広場で襲われて一人だけ生き残りました。」
「そうなんですか、それは大変な目に……。」
プリシアが青年を気遣うと、青年は首を振る。
「いえ、僕はこれくらいで済んだので。」
「それで、私達になにか?」
アナスタシアが声をかけてきた理由を尋ねる。
「すみません、急に声をかけてしまって。貴女達を見ていてもたってもいられなくて。」
「儂らを見て?」
「はい、貴方達だけでしたから。彼女に祈りを捧げてくれたのは。」
青年はそう言うと置かれていた花束に目を向ける。
「お知り合いなんですか?」
「はい、恋人です。」
プリシアが自分の質問の残酷さを悔いる。
「そんな顔しないでください。僕は貴女達にお礼が言いたかったんです。」
「なるほど、そう言う事じゃったか。もし良かったらじゃが、魔物の事を詳しく聞けんかのぅ。そなたには酷な頼みなのは承知しておるが。」
「いえ、とんでもない。僕でお力になれることがあれば是非!」
立ち話もなんだということで、四人は近くのレストランへと足を運んだ。
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